第10話 少女襲来(再)

「ふひぃ、暖かい~気持ちいい~。ここは天国だぁ」


 陽だまりの心地よさに変な声が出る。

 下では、そこかしこで遭遇戦が始まっているみたいだ。

 みんな、元気だなぁ。

 ん? おお……委員長が派手にやってるみたいだ。

 相手は、1年生かな? 可哀想に……夜叉状態の委員長とやり合うなんて。ボクだったら、即座に逃げるね。トラウマになりませんように。なむなむ。

 他はふむ……あのストーカー、もとい月風の気配が感じられない。

 妙だ。あの子の性格からして、出会う相手と派手にぶつかる筈なんだけどな。まだ、誰とも遭遇してないのかな?

 まぁいいや、ボクは試合が終わるまで日向ぼっこしつつお昼寝を楽し――咄嗟に跳ね上がり、回避。さっきまでボクがいた空間を暴風と水流が通り抜ける。

 うわぁ……この魔力は……。


「はぁ……しつこいよ。しつこい女の子は嫌われるんだよ? お嫁に行けなくなるよ? 自己責任だよ?」

「う、うるさいわねっ! 私くらい可愛ければ、選り取り見取り、そうどんな相手だってねっ!」

「……それと、隣のお嬢さんも。友人は選んだ方がいいよ?」

「え、えっとーその……舞花ちゃんはいい子なんですよ? ちょっと思い込み激しいですけど……」

「オイ、そこの彼女大好き男。またしても……またしても、ボクを裏切ったな……? そうかそうか……そんなに、例の件をあの子に暴露されたいのか……」

「ふ……姫。脅しは通じねぇなぁ。もし、例の件をあいつに話したら……こいつを、学内新聞に売る!」

「あん? 何を言って――」


 拓海が不敵な笑みを浮かべながら、一枚の写真を見せてくる。

 ま、まさか、そ、そんな馬鹿なっ! 

 そ、それはネガもデータも、写真自体も一枚残らず処分した筈っ!!


「た、拓海」

「何だね、お姫様」

「ま、まさか、そんなのを一般公開なんて、はは、冗談が上手いな。相変わらず」

「俺は本気だ。けどまぁ――例の件を記憶から永久に消すってんなら譲歩しなくもねぇ」

「OK。ボクは何も知らない。だから、その写真をっ!」

「姫のそういうところ、嫌いじゃないぜ」

「……ちょっと、私を無視してるんじゃないわよっ! あと、私に見せなさいよっ!!」

「拓海! 早く渡すんだっ!! ボ、ボクの尊厳がかかって」

「うん? 何だ見たいのか? ほらよ、嬢ちゃん」


 制止する前に写真は月風に手渡された。

 ……この男。後でコロス。必ずコロス。あと、姫って言うな。

 写真を見ていた、月風は何故か顔を赤らめ、ボクをちらちら見ている。それを覗き込んだ、もう一人の子からは感嘆が漏れる。


「うわぁ……姫野先輩、凄く可愛いです」

「は、反則よ、こんなのっ! メ、メイド服姿なんて……あ、あんたには恥ってものがないのっ? こ、こんなの見たら、自信を喪う女の子だって出るでしょ! 少しは自重しなさないよっ」

「……ボクに拒否権はなかったんだよ。も、もういいでしょ! はい、お仕舞」

「あ……」


 写真を没収すると、月風が寂しそうな表情になる。何でさ。

 はぁ……どっと疲れた。

 もう、帰りたいよぉ。帰って美味しい料理を作りたいよぉ。その後、お風呂に入って、お布団で寝たいよぉ。


「で、何の用なのさ? 人が日向ぼっこしているところに、魔法を打ち込むなんて……酷いー。あんまりだー。非人道的だー」

「姫、流石にそれはどうかと思うぜ? 一応、今は試験中だしな」

「うるさい、裏切り者め。この恨み必ず晴らすからなっ」

「ほほぉ、そんな事言っていいのかなぁ? 俺の秘蔵、姫コレクションを世間に公開してもいいと?」

「!? ボ、ボクを脅すつもりか?」

「あ、それ、興味あるわ。後で見せてよ」

「ふふふ、いいぜ。俺のコレクションは委員長のよりも上だと自負している。何せ

、姫の私服姿とかもあるしな」

「え……あ、あんた、私服も女の子の恰好をしてるの……?」

「しないよっ! どうして、そうなるのさっ!!」


 うぅ……何かどんどん、貶められていく気がする……。

 ほら、もう一人のお嬢さんなんか笑いっ放しじゃないかぁ。


「まぁ、分かった。どうせ、勝負よっ! って言うんでしょ? 仕方ないから相手をしてあげるよ。ああ、だけど、そっちの『双神』さんちのお嬢さんも一緒でね。そうじゃないと、勝負にならないから。拓海は、審判をして」

「言ってくれるじゃない――あれ? あんたに綾を紹介したことあったかしら?」

「えっと……お会いしたことはありますけど……姫野先輩、どうして私が『双神』だと?」

「ほぇ? さっきの魔法を見れば誰にだって分かるでしょ? ただ、二人共、魔法の構築が甘過ぎると思う。魔力量が膨大だからって安易に頼り過ぎ。勿体ないお化けが出るよ、そんなんじゃ」

「……姫」

「……あんた」

「……姫野先輩」

「「「変っ!」」」


 三人が奇妙な表情をしたかと思ったら、失礼な事を言ってくれる。

 こんなの誰にだって出来るのに。はぁ、まったく……。


「みんながやろうとしてないだけだよ? 取りあえず、かかっておいで。終わったら、ボクはまた別の場所で日向ぼっこするからね。早く済ませて、逃げないと。少なくとも明日までは……委員長が怖いし」

「上等よ」

「姫野先輩、その、舞花ちゃんがごめんなさい。よろしくお願いします」

「姫、がんばれー」


 拓海、その手に持っている物は何――いや、気にするまい。後で叩き壊せば済む。

 さて、それじゃ



「少し真面目にやろう。また泣かしちゃっても責任は取らないからね?」

「今日は、私があんたを泣かしてやるわよっ!!」  

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