第8話 『出る』と『参加』は少し違う

「ふん、ようやく出てきたわね。今日こそ決着をつけて――えっと、どうかしたの? その、凄く疲れてるみたいだけど……体調が悪いんだったら保健室に行った方が良いわよ??」

「……どの口がそんな事を。君だって関わったんだよね? 先日の襲撃に」

「う……し、仕方ないじゃないっ! だって貴方、私の事避けてばかりだし……全然、会えないし……そしたら、森塚先輩が……」


 横に立っている某関ヶ原での武将もびっくりの裏切り者――委員長をジト目で見る。が、効果無し。

 ある意味で流石。この程度で揺らぐならあの後、再び僕を裏切った(自分が持っていない映像データと引き換えに)挙句、日曜日の約束は果たさせるという暴挙に出た傍若無人さんでは――ぐふっ。

 的確なレバー打ちが突き刺さり、悶絶する。酷い……そんなじゃお嫁さんになれないんだからね!


「と、とにかくっ!! 今日は正々堂々と勝負よ。逃がさないんだからねっ」

「はいはい」

「はい、は一回!」

「は~い」

「ぐっ……馬鹿にしてっ! 絶対、絶対――今日は勝ってやるんだから。あ、森塚先輩、この前は映像データありがとうございました」

「気にする事はない――同好の士の先達として当然だ」


 ……今、凄まじく嫌な会話がなされたと思うけど気にしたら負けかな?

 拓海、どうしてボクの肩を叩く??


「それにしても……はぁ、この和服姿、凄く可愛いですよね……外見だけは本当に最高なのに……中身は憎たらしいけど」

「うむ。姫野の外見は素晴らしい。中身は残念だが」

「…………公衆の面前で虐めは良くない、良くないと思う。第一、そんな事言ったら、君達だって同じじゃないかっ!」

「「…………」」

「ど、どうしてそこで顔を赤らめるのさっ!?」


 けなした筈なのに、何故か身体をもじもじさせている委員長とストーカーな1年生。え? ボク、変な事言った??

 ――拓海、どうしてもう一回肩を叩く? それとその生暖かい視線を止めろ。


「――こほん。姫野、今日はきちんと来た事は評価しよう。後は全てを蹴散らすだけだ。勿論、分かっているだろうな?」

「そうよ! スタート地点が違うけど……すぐ、そっちに行くから、待ってなさいっ!!」

「……此処まで来たら、最善を尽くすよ。折角出るんだからね」

「姫、珍しく素直だな――はっ、ま、まさか偽物!?」

「「!」」

「拓海、ボクだって諦めの胸中になるんだよ……? それとも代わる? ほら、君の彼女だって着せ替えがしたいって――」

「姫っ!! それはトップシークレット……はっ!?」


 拓海を我がクラスメート達(彼氏彼女持ち含む。他人の幸せは取りあえず妬むのが基本なのだ。と言うか楽しみは逃さない)が囲む。

 嫉妬のオーラが禍々しい。真っ黒なそれが見える気がするよ。

 ふふふ――ボクを裏切ったのは委員長だけじゃなく、君もだからね……。精々、恥ずかしい話をこの場で暴露されるといい。

 その隙に逃走を――委員長、どうしてボクの手首を握ってるのかな? それと、そんなに強く握りしめられると……骨が軋むんだけど、な……。


「――逃げるな。今日こそ、お前の実力を満天下に示せ。姫野優希は誰よりも凄いんだ。お前が本気になれば敵う者などいない!」

「過大評価――」

「じゃないとのは私が一番よく知っている。いいな?」

「……ねぇ、私の前いちゃつかないでくれるかしら? まぁいいわ。後で必ず――泣かしてあげるから覚悟してなさい」

「……今の台詞だけ切り取ると、ちょっと変態ちっく――OK、何でもないよ。ほら、行かないと間に合わなくなるよ」


 いきなり上級魔法を展開し始める月風を宥め、スタート地点へと向かわせる。

 拓海は――そろそろ、裁判も終わったみたいだ。


「――被告、矢野拓海は有罪。さて、恥ずかしい話を吐いてもらおう。その前に相手は誰だ?」

「言うか馬鹿共っ!」

「ほぉ……そんな事を言っていいのかな?」

「な、何だ?」

「証人、前に――」

「ま、待ってくれっ! お、俺が悪かったっ!! この試験が終わったら公表する――だ、だから猶予期間をくれっ」

「えっと、拓海の彼女はとっても可愛らしくて、毎日お弁当を手作りで――」

「姫っ!」

「……どうやら罪状が増えるようだ……」


 燃料を追加して再炎上――いやぁ、だって君だけ被害無しなんてそんなの駄目だと思うんだよね。それと、毎日のように聞かされるボクの立場にもなってほしい。

 世の中、公平にしておかないと!



『第1、2学年合同魔法試験開始まで後1分――各自、準備をして下さい』



 放送が流れたので試験会場――広大な森林・草原・荒地。やたらめったらに広い――へ続く巨大な扉の前に集合する。なお、今回の試験はクラス単位で成績が判断される。つまり味方はクラスメートだけ。他は全員、敵となる。

 ……拓海の再審は間に合わなかったか。惜しい。まぁ終わったらでいいか。

 それよりもボクが成すべき事はただ一つだしね。


「皆、いいな。今回は姫野もいる――総合優勝を狙うぞっ!」


 委員長がみんなを鼓舞している。

 よしよし、手首から手を離してくれたぞ――



『5……4……3……2……1……ゲートオープン。第1、2学年合同魔法試験、開始して下さい。制限時間は2時間です。各生徒の日頃の成果を存分に発揮することを期待します』


 

 聞こえた瞬間に逃走! まだ誰にも気づかれていない。

 確かにボクは『出る』と言った――言ったけど、『参加する』とは言ってないからねっ!

 と言う訳で――ハハハ、さらばだ委員長。終わったら……嫌、怖いから明日また会おうっ! 

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