第7話 そして友情は儚く

『――こちら、強行偵察班。目標を視認。今のところ、気付かれた様子なし』

「了解。こちらの準備は完了している――行動を開始せよ」

『了解』

「――貴様等の献身、無駄にはせん」


 重々しい口調で告げた森塚がトランシーバーを置く。

 そして、俺達を見回す。


「状況は開始された――全ては作戦通りに」

「……だがよ、委員長。今回は相手が相手だ。初手が失敗すれば」

「ふ、矢野――あいつ等は、我がクラスでも筋金入りの精鋭。流石の私でもあれ程ではない。死んでも任務は達成するだろう。逆に失敗するのなら――私達の戦力では不可能だ」

「……確かにな」

「急げ私達も移動するぞ」


 バタバタと皆が駆けだして行く。一名を除いたクラス総員だ。

 ……なんつーか


「うちのクラスって毎回、これが出来たら、学年どころか学院最強なんだろうがなぁ……その行動基準が……」

「矢野、もたもたするな――今回は速度重視だ。罠に気付かれれば、逃げられる」

「……了解だ」


 それにまぁ、どうせなら面白くなる方に一票は投じた方が、俺も楽しめる。

 悪いな――姫様。



※※※



 ――周囲を囲むように6が接近中。

 

 この感じ、おそらく、クラスメートの馬鹿連中の中でも特別な馬鹿共か。

 現在、時刻は15時半過ぎ。

 一日の授業を終えたものの、例の台風娘がうろちょろしている為、帰れず。

 ……折角、お気に入りのお昼寝スポットでうとうとしていた所だったのに。


「……気持ちよく寝れてたのに、何の用なのかなぁ」

「「「お姫様、寝顔はもらったぁぁぁ!」」」


 奇声を叫びながら、男3人が襲撃してくる。

 ……残念、ボクはもう起きてるよ。

 あっさりとかわして、冷たく言い放つ。


「ねぇ……どういう事? どうして、ボクを襲撃したのかな? あと、お姫様って言わないっ」

「――我々には崇高な使命があるっ!」

「――それをここ最近、果たせていないっ!」

「――故に今日、実力行使に移ったまでのことっ!」

「…………一応、聞くけど、それって何?」

「「「勿論、我等『姫様を愛でる会』会員へ配る写真を撮る為!」」」

「うん……取りあえず、地獄へ行こうか?」


 我ながら冷たい声で言い放ち、カメラを凍結させる――まったく! 何を言うかと思えば……。

 あ、後で写真データも壊しておかないと。

 取り合えず、まずはこの馬鹿3人を始末――む。


「姫様っ!」

「写真をっ!!」

「この服着てっ!!!」


 時間差攻撃ね――はいはい、読んでる、読んでる。

 それぞれ、別方向から突撃してきた変態共――信じられない事に女の子までいる。何故に――を迎撃。

 持っているカメラを今度も凍結。

 大丈夫、この子達が持ってるのは耐候用で恐ろしく頑丈だからこれ位じゃ壊れない……対処に慣れつつある自分がちょっと嫌だ。


「うぅ……」

「いいじゃない、減るもんでもなし。撮らせてよっ!」

「大丈夫――少しでいいから、この服を……」

「こ、怖いよ……はぁ、それにしてもどうしたのさ? 普段はここまでしないのに。今日に限ってどうして――」


 ……瞬間、背後に寒気。

 何も考えず回避行動――伏兵、だと?

 ……この子達全員が囮兼特攻役か。。

 さて――この腕と足に絡まってる黒い糸は何だろ? 

 ち、ちょっと禍々しいんだけど……そして、この魔力反応は……。


「くくく……流石の姫野も、とで組み上げた阻害魔法によって、一瞬気付くのが遅れたようだな」

「い、委員長……こ、これはどういうことさ?」


 僕を囲むようにクラスメート達が次々と近寄ってくる。

 ぐっ……この糸、全然、きーれーなーいぃぃぃ。


「無駄だ、姫野。それは強行偵察班及び例の会有志が夜なべして作成した特製の捕獲用――幾ら、お前でもそう簡単に切れる物ではない……」

「えっ……委員長だって熱心に参加、ぐふっ……」


 おお……見事なレバー打ち。あれは苦しい。

 ――委員長をじっと見る。

 何で、頬を赤らめてるのさ?


「こほん――さぁ、姫野、観念しろ」

「えーっと……正直、何でこんな風にされてるのか今一分かってないんだけど?」

「最近、君はあまりクラスにいないな?」

「え、あ、うん……」

「分かるだろう? それ絡みだ。そして、今度の1,2学年合同魔法試験、君はどうするつもりだった?」

「勿論、サボ」「……この私がそんな戯言を許すと思うか?」「…………」


 意見表明すらさせてくれないとは……。

 う~ん、だけど、あれに参加すると絶対追いかけ回されるし、面倒なんだけど。

 隠れようにも、開始と同時に捕捉されたら追われるだろうし。

 ……仕方なし。


「委員長」

「何だ? ようやく、覚悟を決めたのか?」

「――味方になってくれたら、委員長が言ってた申し出受けても良いよ?」

「!!?」

「今度のお休みとかどうかな?」

「うぐっ……き、汚いぞ……そ、そんな事でこの私が裏切るなど――」

「お願い――香澄」

「…………一身上の都合により、私はこれから姫野の味方に回らせてもらう!!」

「ええええ!」「委員長、それは流石に……」「俺達のカメラは何の為にっ!?」「え? 今のやり取りって……え?」「横暴だー」「ひ、姫様にいったい、何を!?」「も、もしや……」「ぬ、抜け駆けだっ!」「御乱心! 御乱心!!」


 委員長の炎魔法が僕を絡めとっていた黒糸だけを焼き尽くす。相変わらず見事。

 同時に周囲から巻き起こるブーイング。

 よしよし――これで多少の足止めは出来よう。

 ……おや? どうして、委員長は手を放してくれないのかな?


「えーっと……?」

「――もう一度」

「へっ?」

「――もう一度、名前で呼んで? 今度は忘れずに録音するから」

「……委員長、素が出てるよ……」

「……呼んでくれないの?」

「――香澄」

「てへ――さて、やろうか?」


 ふにゃふにゃだった委員長が一転、何時もの凛々しい委員長に立ち戻る。

 同時に、大規模魔法を複数構築――それを見てもクラスメート達は後退せず、むしろ戦意を高めている。

 どうやら退くつもりはないらしい。複数の人間がカメラを持っている。

 

 ……いや、君達、本当に好きだよね、こういうの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る