第2話 少女襲来
「うぅ……酷い、酷すぎる……人間としての尊厳をまたしても汚された……」
さめざめと泣くボクに対して委員長は満面の笑み。
散々撮ったデータを確認している――どうしてだろう。委員長は美人さんなのに、その姿を見ていると悪寒が……。
それを見ている拓海は苦笑。
……裏切者め。この借りは必ず取り立てるからなっ! あと、その背をそろそろボクにも分けろ!!
制服へ着替え終わり、尋ねる。
「――入学式は終わった訳だし、もう帰るよ?」
「そうだな……嫌、やはり駄目だ。少なくとも、午後までは学内にいろ」
「はぁ!? 何でさ??」
「……姫、ここは森塚に従った方が良いと思うぜ? 今、学内を動き回るのはちょっと止めといた方がいい」
「姫って言うなっ。……どういう意味? そもそも、屋外実習場から此処まで来る時も、周囲を警戒してたみたいだけど?」
そうなのだ。
お昼寝をしていた屋外実習場から生徒会室への拉致――もとい、連行されている最中、誰にも会わなかった。
……まるで、意図的にそういうルートを選んだかのように。
「あ~……それは、だな……」
「矢野、待て」
委員長が拓海を制止する。
そして、目の前で内緒話を始める。
む――仲間外れか。
(ここで、姫野に今日の話をするのは――駄目だ)
(何でだよ? どうせすぐバレるぜ?)
(……考えてみろ。今、話したら明日この怠け者が学校へ来ると思うか?)
(……来ないな)
(だろう? ならば――今日のところは一先ず秘密にしておいた方が得策だろう)
(……明後日以降は?)
(――苦渋の、そう! 本当に苦渋の決断だが――わ、私が明後日以降は家まで迎えに行こうと思う)
(――――なるほど)
拓海が突然にやにや笑い始める。
……気味が悪い。
一体、何の悪巧みをしているんだ?
間違いなく、何か良からぬことだよね!?
「ねぇ……?」
「ああ、姫。悪い悪い」
「こほん――姫野、やはり午後まではここにいろ。昼食は私が――」
「いやいや、そこは俺が調達してきてやるよ」
「矢野……!」
「何、いいってことよ」
またしても、意味不明な意思疎通が行われている。
……この二人、時折こうやって目の前で物事を決定するんだよなぁ。
仲良しさんである。
まぁ、それはいいとして――午後まで拘束される理由が分からない。
しかし、どうやら既に決定事項らしくボクの意思表明は端から無視されているようだ。
……解せぬ。
「と、いう訳で――そうだな、さっきの続きを――」
「それじゃね、委員長!」
ボクは逃げ出した。
けれど、足に鎖が繋がれていて逃げられない! 拓海ぃぃぃ!!
委員長が扉の前に立ち塞がった!
「――姫野」
「な、何さ?」
「悪かった」
「……へっ?」
「まさか、君がここまで嫌がっているとは知らなかったんだ。すまない」
真摯な謝罪。
ま、まぁそこまでしてくれるなら――
「私の趣味だけを押し付けるのでは確かに嫌だろう。だから――これを」
「…………委員長」
「何だ」
「あえて聞くけれども……その服は何かな?」
「これか? クラスの有志が提供してくれた君用の衣装だが」
「おかしいよねっ!? それ、おかしいよねっ!?」
何処の高校生が、クラスメートに対して、わざわざ着せたい服を選んでくる――ああ、目の前にそんな変態さんがいたな……。
しかし、だからといってこれ以上の茶番には付き合っていられない。
「ボクは帰る」
「ほぉ……」
「か、帰るったら帰る」
「へぇ……」
「か、帰るんだからね」
「……いいから着ろ」
「……あい」
この後、ボクの魂は死んだ(本日二度目)。
その日、どうやって家に帰ったかは覚えていない。誰かにおぶわられたような……。
それにしても……委員長、怖い。
※※※
一応、進学校である我が校は入学式翌日からがっつり授業を行う。
正直、げんなりするものの、委員長からの「絶対にサボるな!」というお達しもあり、ボクは遅刻することもなく校門を潜り抜けた。
そこかしこから、挨拶が飛んでくる。
それらに答えたり、罵倒を返したりしていたが――妙である。
何時ものそれとは、何かが違う。
からかわれたり、姫呼ばわりするのは一緒なのだが……。
何なんだろう――この暖かい眼差しは?
首を傾げながら教室へ。
――おや? 何でこんなに人混みが出来ているのだろう。
入ろうとするものの、入れないー。
見知った同級生がいたので声をかける。
「これは何の騒ぎ?」
「あ! おはよー」
「おはよ」
「道を開けて~。主役が来たよ~!」
女子生徒が周囲に呼びかけると、ざわつき、そして人混みが左右に分かれていった。
……何か嫌な予感が。
恐る恐る教室へ入ると、そこには二人の美少女が対峙していた。
一人は委員長。もう一人の淡い茶髪の子は――誰だっけか?
何処かで見たような……見ないような……。
「貴女に用はないのよ、私は」
「悪いが、姫野はまだ来ていない。お引き取り願おう」
「なら来るまで待たせてもらうわ」
二人とも喧嘩腰だなぁ……。
野次馬の中に、背が高いのを発見。
袖を引く。
「拓海、この騒ぎはなんだ?」
「ん? そりゃ決まってるだろうが――姫を巡って女の争い――姫?」
「おはよ」
拓海が阿呆な表情をこっちへ向けてくる。
な、何?
「ああああああ!!!」
突然、金切り声が響く。
うるさい……一体、誰さ?
見ると、美少女がボクヘ指を突き付けていた。
そして、言い放った。
「ようやく見つけたわよっ! この前の借り……! 万倍にして返させてもらうわ!!」
……いやだから、誰さ?
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