第1話 委員長は可愛いものがお好き
うちの魔法学校――実は全国屈指の名門校らしい――の良い点は、良好な昼寝スペースが容易に確保出来ることに尽きる。
特に今日みたいな小春日和は最高である。陽だまりで寝転んでいれば、必然的にねむねむ。
うつらうつらしていると――携帯が震えた。
む……誰だ、一体。人が気持ちよく寝ているのに!
「ふぁい。今は眠たいので後でおかけなおしを――」
『ひ~め~のぉぉぉ~……』
夜叉の声――咄嗟に携帯を切る。
周囲を警戒――大丈夫、まだバレてない。
再度、携帯が震えるも、電源を落とす。
取り合えず移動しないと。ここは危険だ。
移動しようと、立ち上がる――殺気。
くっ……早過ぎる。流石は――
「……流石は委員長……それでこそ、それでこそボクの宿敵だ……」
「うるさい! 黙れ、この馬鹿っ!!」
「ひ、酷いっ。べ、別に何も悪いことしてないじゃないかっ」
ボクはただ、お昼寝を楽しんでいただけだ!
人には陽だまりでくつろぐ正当な権利がある!!
その権利を得る為ならば戦争すらも厭わない!!!
「…………姫野、君は今日が何の日か知っているか?」
「ん? 入学式でしょう?」
ボクはこれでも常識人なのだ。
学校の公式行事は把握をしている。
「なら――何故、君はこんなところで寝ていたのだ?」
「え? 暖かったから、つい」
「つい、で入学式をサボるな!!」
「……てへ」
委員長の視線が冷たい、冷たすぎる。
下手に美人さんなので余計突き刺さる
――うん、これはマズいな。
取り合えず命が危ない。
幸い、この距離ならば逃げ切れる――よし逃げよう。
「……動いたら、昨年の文化祭で撮った写真をばら撒く……」
「!? い、委員長……は、はは……まさかそんな悪辣非道な事を、うちの委員長に限って……」
「言っておくが……私は本気だ」
……目が据わっている。
あ、あれぇ? 何時もより怒り方が激しいような。
「……何かあったの?」
「あったかだと? ああ、あったとも……取り合えず――矢野!!」
「ほいよ」
しまっ――土魔法で創り出された金属の鎖で身体を縛り上げられる。
またしても……またしても、お前かっ。
「……拓海、何故だ!?」
「姫、今回はちょっと養護出来ねぇわ。責任は取ってくれ」
「は? どういう? あと、姫って言うなっ」
「――姫野、君に発言権はない。取り合えず黙れ」
「……あい」
怖っ……何があったんだよぉ……。
こうして捕獲されたボクは拓海に抱えられ、連行されたのだった。
※※※
「どなどなどな~どな~……」
「姫、気持ちは分かるが――止めとけ。今の森塚は夜叉か修羅だぞ?」
「――矢野?」
「はっ! 私は委員長の忠実なる下僕でありますっ!」
「よろしい。被告人は前へ――単刀直入に聞く。姫野、君はあの子に何を言ったのだ?」
「へっ?」
連れて来られたのは生徒会室だった。
今の時間帯ならば、誰も来ないから都合が良い、だそうだ。
……質問の意味が良く分からない。
「えっと――意味がよく分からないんだけど?」
「春休み中に君が泣かした女の子がいただろう。その子に何を言った、と聞いている。それと……あの時は、その、ありがとう……」
「…………あぁ。そんな事もあったねぇ。気にしないで。はめたのは拓海だから」
今の今まで忘れ去っていたよ。
だって興味もないし。今後、関わることもないだろうし。
だけど――
「何も言った記憶はないけど?」
「……本当か?」
「うん」
「そ、そうか。ならば良いんだ。私はてっきり――」
「てっきり?」
「! な、何でもない。さぁ、ではこれから入学式をサボった君への折檻を――」
鎖を解除し、窓から逃亡を図る。
まだ死にたくない!
「姫野! 逃げるな!!」
「姫、幾らなんでもここ3階だぞ?」
「ぐっ……そこまでしてボクを虐めたいのか……」
「虐めるだと? 虐めるとはこういうことを言うのだ――」
委員長が携帯の画像を見せてくる。
そ、それは――ま、まさか――嗚呼、神様。
「お~去年の文化祭だな、これ」
「うむ。こうして見るとやはりよく似合っている――おや、こんな所に何故かその服が――」
「ぐっ……き、汚い。汚いよ、委員長。それでも、森塚家の長女なの!?」
「君にだけは言われたくない。年下の少女を、公衆の面前で大泣きさせたのは一体何処の誰だったか、思い出してみるといい」
ジト目で見てくる委員長。
駄目だ――勝ち目を見いだせない。
……うぅ。ちょっと涙が。
携帯のシャッター音。
「と、撮るなぁ!」
「君を黙らす為のカードは幾らあってもいいからな。これは委員長としての重要な仕事――そう、仕事だ」
「……森塚、流石にそれは……」
「矢野?」
「はっ! 重要だと思います! ついでに学年内に限り投稿すれば更に効果的かと」
「ふむ、一考に値するな。しかし――この写真を一人で愛でるのもまた――」
「…………」
うちの委員長――炎魔法の名門『森塚』家長女、森塚香澄嬢は真面目である。
が――同時に可愛い物大好きな面を併せ持つ。
端的に言うと、この子、事ある毎にボクで実験しようとするのだ。
「私が着るとどうもしっくりこない」系を着させてくるから質が悪い。
……しかも、その写真や映像データが裏で出回っているらしいというのだから、奇怪と言えよう。
「取り合えず帰っていいよね?」
どさくさに紛れて撤収を――い、委員長、さっきの服を持ちながら無言で腕を掴まないで。
た、拓海、助け――どうして、お前がカメラを持っている?
――それから行われた非人道行為について、ボクは黙秘権を行使しようと思う。
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