第24話 選択

 私がロリータ服を持って店へと戻ると、アッシェとシュルーナは、口々にその服の感想を言い合った。

 アッシェは服を手に取ると、

「またえらく、かわいい服だな」

 と持ち上げる。

 次にシュルーナが、

「ほんとだよ。こんなフリフリの服なんて初めて見たぞ」

「凄いな、ここの構造どうなってるんだ?」

「見ろよおっちゃん!この服、少し盛り上がるように中が、、」

 うるさい人達だ。とは、思ったりはしなかった。

 何故ならその会話の中に、私の声も混じっていたから。興奮する2人つられて、不思議とテンションが高くなる。

 服を持っているシュルーナから取り戻すと、

「え?どこです?ほんとだ!!」

 と裏返して確認をすると、確かにそういった構造になっているのが分かった。

「やべーよ。なんだよこの服」


 ひとしきり騒いだところで、アッシェが値段を提示してきた。

 普通の服なら赤5枚が良いところだったが、どうなんだろう。

 アッシェは人差し指を立てると、 

「黒1枚でどうだ?これだけの価値はある」

 と提示してきた。

 予想を超える額に、私は驚いた。多くてせいぜい赤6枚、7枚というのを考えていたが、これで買い物もすることが出来そう。

「じゃぁ…うりま…」

 と渡そうとするが、その手は私の心とは裏腹に、開いてくれなかった。

 私を顔をのぞき込み、

「どうした?」

 とアッシェは尋ねるが、それは私が知りたい。

「え、っと…何でだろ」

 服を掴む手が、震えてくる。

「なんだ?まぁ、確かにこんなレアな服二度とお目にかかれないだろうよ」

「でも、ガソリン…」

 震える手をもう片方の手で押さえて、机の上へと無理やり離した。

 実用性とか、そんなこと、どうでもいいぐらいに、何故かこの服を手放したくない。

 ボルドとの思い出の品、とかそんなんじゃない。

 もしかしたら。これは新しい趣味への目覚めなのか?こういう物が、好きになってしまったというのか。

 そんな様子を見かねたのか、

「あ~分かった分かった。こうしよう」

 と口を開いたのは、シュルーナだ。

「こんなことしてたら、ここで日が暮れちまうだろ?こいつを大会に出させればいい」

「ギャンブル大会か?素人に出来るもんじゃないぞ」

 二人の言葉に、私はくびを傾げた。

「ギャンブル?」

 店から外を見た。

 遠くからだと、円の形をした大きな建造物だったが、ここから見るとまるで壁だ。この国ではギャンブルが盛んに行われており、その大会がそこで行われているらしい。

 シュルーナは、机の上に黒いチップを、私の手のひらに押し付ける。

「おっちゃんから、この服を担保にしてチップを受け取る。あんたはこの国で、同じだけの金額を勝ち取ることが出来れば、買い戻せばいい」

 と言い、服をアッシェに渡した。

 しかし、アッシェは不満そうに腕を組み、

「それ、俺の徳がないじゃないか。今すぐ売り出したいって感じなのに」

 と言った。

「まぁ、まぁ…それはね?」

 シュルーナは私に聞こえないように、何やらアッシェに耳打ちをした。それを聞き終わると、アッシェとシュルーナは何やらにやりと口元を緩める。

「分かった。だが、預かっておく期限は大会が終わるまでだ」

 ギャンブルでお金を2倍以上に増やす。

 普通に考えれば、そんな馬鹿なことはしない。だが、それが一番の平和で終わる。


 そして、私がロリータ服を一着失うだけだ。

 だけ…か…。違う、絶対に勝つよ。


 私は頭を下げながら、

「ありがとうございます。では、お借りします」

 とお礼を2人にした。

 それに返事をする代わりに、シュルーナは車のハンドルを握るような動作をした。

「で?ガソリンは今買うか?元金が減っちまうが」

 ガソリンは緑3。つまりは緑7が残る。

 最悪、この元金が0になるということを考えると、先に使って仕舞うのが吉だろう。

「今、買います」

「そうか、じゃぁ満タンまで入れといてやるよ。あんたはこの街を楽しんできな。あ、それとな、宿ならこの道をずっといった所ににある白鯨っていうのが安くていいぞ」

 シュルーナに緑3枚を手渡し、もう一度二人にお礼を言うと店を出た。

 何だか、少しだけ寂しいような感覚がする。

 絶対にギャンブルで勝って、取り戻してやる。私の意気込みは強かった。


 けど、ギャンブルって何をするんだろうか?


 人通りが多い道を歩いて行く。流石にりんごのような食べ物は見ないが、露天にはキラキラと輝くオーパーツが並べられている。

 丸くて太陽の光でキラリと光るガラスの玉は、食べてしまいたいぐらい綺麗だ。フォークと書かれた尖った鉄の棒は、食事に使うらしい。レーションを食べるのに使ってみてはいいかもしれない。

 どれも興味深い物ばかりで、少し歩くたびに足を止めては眺める。そして、その値段を見てその場をそっと離れるのだ。この小さなガラス玉ですら、緑1するのだ。

 このままここいては、直ぐにチップが無くなってしまう。


 しばらく道なりに歩いていると、「白鯨」と書かれた石の看板を見つけた。

「ここ…かな?」

 白鯨と言うだけあって、建物は白くて上の部分は微かに丸い。

 扉はなく、そのまま中へと足を踏み入れた。

 入口付近にあるテーブルの上には、チップを模った石像が置かれていた。なによりそのテーブルは、つやつやとする灰色のテーブルで、今ではこんな物など加工できないだろうから、これもオーパーツだ。

 誰も人がいないので、

「こんにちは」

 と私は奥の方へと声をかけた。

 建物の中は、とても綺麗だったが微かに薄暗い。オーパーツの国とはいえ流石に電気は通っていないようだ。

 奥の方から、

「はーい」

 と透き通るようにかわいい声が聞こえてきた。

 足音と共に、その声の主が私の前へと姿を見せる。

 金髪で小柄なその子は、天使という比喩表現で表す以外に言葉が思い浮かばない。整った顔に、つやつやの肌。サラサラとした金色の髪が、窓から入ってくる陽の光でより輝きを増す。


 昔なら相当にモテただろうに。

 明らかに彼女は、生まれてくる時代を間違った容姿をしていた。


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滅び行く世界の片隅で ゆーうに @unikura

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