第23話 金


 街の中へと入ると、それはもう過去に経験したことがないほどの人でごった返していた。

 しかも、歩く人は皆がオーパーツを持っているのだ。さらに、これだけの人…異様な光景にすら見える。

 思わず、街の風景を写真へと収めた。

 旧文明と現代の貧相な文明の融合によって出来た、奇妙なな空間が作られている。

 窓から顔を出している私に、

「な?凄いだろ」

 とシュルーナは声をかけた。

 私はその光景に口を開けながら、

「えぇ…凄いです」

 と返事をした。

 トレーラー車は、街の中央の広い通りを人をかき分けるようにゆっくりと走る。

 そして、ただ何もない広々とした空間へと来ると車を止めた。近くには、石で”P”と掘られた看板らしきものが見える。

 シュルーナは、

「到着だ」

 とエンジンを切る。

 トレーラー車から、軽くジャンプをして飛び降りた。足元にコンクリートの固い感触が伝わる。凄い。地面もしっかりと舗装されている。

 車から降りた私達は、荷物を全て置いてそこを離れた。

 どうやら、彼女は行くところがあるらしいので、それに付いていくことにした。

 後ろを何度か振り返りながら、

「荷物を置いていけるなんて、安全な国なのね」

 と少し不安そうな私は言った。

「あ~まぁ、安全だな。治安維持部隊が、かなり動いてるからな」

 シュルーナに案内され、街の中へと入っていった。歩くたびに、他の誰かと肩ぶつかりそうになる。ガヤガヤと様々な声があちらこちらへとゆき交う。

 右を見ても左を見ても、多くの店が所狭しと立ち並ぶ。洋服、石、木材、機械…まるでオーパーツの見本市場。欲しいものなら何でも揃っていそうだ。

 シュルーナは、その中でもひと回り大きい建物の前で足を止めた。

「おっちゃんいるか~」

 と声を張り上げながら彼女は店へと入っていった。

 それにつられて私も入っていくと、小太りな男が丸い物を数えながら座っていた。

「うるせぇ!俺はまだ30代だぞ」

「あははは、そんな身なりでかよ。で、新しい旅人だぞ」

 年の差を感じない仲の良さを感じる2人だ。

 男は数えるのをやめると、こちらへと顔を上げた。確かに、年齢と顔がお世辞でも一致しない。

「ん、あんたか。俺はアッシェだ。こんな国とか言っている割には、街1つしかないオーパーツの国へようこそ」

「アイリです。ところで、それ何ですか?」

 私はアッシェが数えていた丸い物が気になった。

 木のようにみえるが、赤、緑や黒の綺麗な色がついている。逆に石かと言われれば、そうでもなさそう。

 アッシェはシュルーナノの方に視線をやると、

「シュルーナは説明してなかったのか?」

 と聞く。

 その問いかけにシュルーナは視線を逸らすと、

「わりー忘れてた」

 と言った。

 はぁ、とアッシェはため息をつき、丸い物を色ごとに机の上に並べた。

「これはチップって呼ばれてる、この国の通貨だ」

「通貨?」

 私は机に置かれた赤いチップを手に取った。

 想像していたよりもずっと軽い。

 肌触りは石に近いが、中は空洞のように感じる。見たこともない素材だが、バイクに使われている素材と親近感を覚えた。

「あぁ、プラスチックっていう素材らしい。今じゃ、技術的に制作できないから、偽装するやつもいないっていう訳さ」

 プラスチック。その素材もまたオーパーツである。 オーパーツを通貨にしてしまうのは、なんともオーパーツの国らしい。

 でも…そんなことしては、流通させる通貨はこれ以上増やすことは出来ないけど、大丈夫なのだろうか。

 ま、どっちもどっちだろう。

 手に取った赤いチップを手で回し、

「この赤いのが数が多くあるから、一番安いんですか?」

 とアッシェに尋ねた。

「まぁ、そういうことだな。赤の10倍が緑、さらにその10倍が黒ってことだ」

 と言い。さらに続けた。

「これを使えば、街で色んな買い物ができのるさ」

 チップ自体も小さいし、持ち運びたいから、是非とも手に入れたい。

 それにチップを使えば、欲しいオーパーツを手に入るかも。今はクーラーが欲しい。見つかれば、だけれども。

「これ、どうすれば譲ってくれます?」

「そう来なくっちゃ、ちょっと待ってろ」

 アッシェは椅子から立ち上がると、奥へと引っ込んでいった。きっと価格表とか、そういうのを探しに行ったのだろう。

 後ろでずっと黙っていたシュルーナが、

「なぁ、ガソリンはいいのかよ?」

 と口を開いた。

 目の前の事に頭を支配されていた私は、すっかりと一番必要なものを忘れていた。

 彼女の方を振り返ると、

「そうだ、忘れた。ガソリンもやっぱりチップで買うの?」

 と尋ねる。

「おうよ。だけど高いぞ…緑3枚だ」

 シュルーナは指を3本立てる

「緑3枚…?」

 そういえば、通貨の価値を聞いていなかった。

 奥から音がしてアッシェがもどってくると、この世界では珍しい紙を1枚、机の前に広げた。

「これが、大体の相場だな。覚えるか、なんかそういうオーパーツがあれば記録してくれ」

 私は記録の書物を取り出すと、それを写真へと収めた。紙というオーパーツも記録できて一石二鳥だ。ニコニコとした表情の私だったが、紙をのぞき込むと顔から血の気が引いていくのが分かる。

 紙に書かれていた内容は、非常に残酷な内容だった。

 そんな様子を見て、

「うちは換金所だからな、今あれば買い取るぞ」


**************


食器などの日常品:緑2枚

消耗品:緑1枚

洋服など:緑5枚

時計などの精密機器:緑8枚

発電機などの工業品:黒1

自動車などの動く品:黒10


その他、木材やパーツ:要相談


**************


 オーパーツとは珍しい物である。さらに言えば、通貨を失った今では、ぶつぶつ交換以外での入手はほぼ不可能。

 そんな中で、ではオーパーツが沢山集う場所ではどうなるか。

 ガソリンは手に入れたい。だが、今持っているオーパーツの数は、そんなに多くない。

「ゴーグル」

「対砂嵐テント」

「迷彩服」

「サバイバルナイフ2本」

「バイク」

「ロリータ服」

 あとは、バイクに結び付けてる水を入れるためのタンク。

 どれも、捨てられない必須アイテムだ。一応予備があるサバイバルナイフの片方を取り出すと、机の上に置いた。

「これだと?」

 アッシェがナイフを持ち上げると、光に反射させながら一周まわす。さらに机の上に置きなおすと、目を近づけてじっくりと指で触りながら確認した。

 机の上にあった赤いチップをいくつか積み上げると、

「赤5枚だな。これなら、結構流通してる。どうする?」

 と言った。

「辞めときます」

 私は即答した。

 あまりの値段の低さに、しょんぼりとナイフを戻す。

 あと、予備があるオーパーツといったら服である、迷彩服かロリータ服か。

 だけど、ロリータ服で砂の道を動けるわけがない。あの荒廃した都市で、実際になんども痛い目にあった。

「ちょっと待っててください。荷物取ってきます」

 まだ決めかねてはいるが、とりあえずそれを取りにいこうと、店を出た。

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