オーパーツの国

第22話 でか物


 あれは5日前のことだ。


 私が重いタイヤのバイクを引きずりながら、北へと進んでいると、ボルドと出会ったような小さな街へと辿り着いた。

 街中へと、ボルドの街と同じ様にりんごの木の噂が広まっていた。

 誰に尋ねても、

「オーパーツといえばりんごの木」

 としか返答が返ってこなかった。

 それに、管理人が言っていた、ガソリンはどうやらこの街にはないらしい。

 私をゾンビにさせて殺そうとした連中だ。

 普通に噓をつかれていても、なんら不思議ではない。

 街中を聞きまわっていると、年寄りの男性が、何かを知っている様子でこちらへとのやって来る。

 年寄りの話に思わず口を大きくして、

「え?さらに北に」

 と聞き返した。

「そうだよ旅人さん。世界中のオーパーツが集まる国があるんじゃ」

「世界中の!?オーパーツ」

 なんだ、その夢のような国は。

 探し求めていたガソリンも、そこの国で手に入るかもしれない。

 一石二鳥とはこのことだ。

 さぁ出発、夢の国へと回れ右をした。

 もう、この街から立ち去ろうとしている私に

「もう、行くのかい?まだ来てから1日もたってないじゃないか。ゆっくりしていきなよ」

 とその年寄りが呼び止める。

 私はこれでもかといった笑顔で、

「いえ、こんな話を聞いて、ここにいる方が心に悪いです」

 と振り返った。

 年寄りが止めるのを無視して、重いタイヤを引きずりながら、街の出口へと向かった。

 急ぎ、次の街ガソリンを入手したい。

 記録の書物さえ充電できなくなっては、私の生きる希望が失われてしまうではないかと焦る気持ちと、動けるスピードが一致しない。

 トロトロとその街を後にした。



 ということが数日前にあったのだが、テンションが上がって思考が麻痺していた私は、水と食料の補給をすっかりと忘れてしまっていたのだ。

「空ね…」

 たった今飲み終わった、最後のボトルをひっくり返す。

 水一滴が滴ることもなく、むなしく空のボトルの中身を覗き込んだ。

 湿った匂いが中から感じるが、もちろん水は出て来ることはない。

 さらに、最後のレーションを取り出すと口へと入れた。サクサクともさもさとした食感が口にひろがる。口を動かす度に、唾液でを含んだレーションが、泥のようにふやけて大きくなる。

 水がないと想像以上に食べずらい。重い物が、のどに突っかかり、お腹へと落とし込まれた。

「ゴホゴホうぇ…食べずら…」

 むせる喉へと、口に溜めたつばをごくり飲み込んだ。ドロッとした感触が、のどへと通り抜けるる。

 レーションを食べる前に、水を飲み終えてしまったのは、どう考えても失敗だった。

 街で補給を忘れたことといい、2重にバカが重なる。

 この暑さで頭がやられているのかもしれない。

 暑い砂の上へと、体の大の字に広げて、

「はぁ~オーパーツの国はまだなの~」

 とぼやきながら横になった。

 砂のサラサラした感触と熱を全身へと浴びる。

 そんなことをしていると、遠くからエンジン音が聞こえてくることに気が付いた。

 目を凝らして、音がする方向を見つめた。

 遠くから土煙を出しながら一台のタンカー車がこちらに近づいてくるの視界に映る。

 音の大きさと共に、その姿はどんどんと大きくなっていった。

 レーションが、まだ喉に残っているような感覚がして気持ち悪いのを我慢して、

「おぉ~い!!そこのタンカー車!!」

 と立ち上がって大声で叫んだ。

 こんなチャンス、逃したら二度と無い。はちきれんばかりの声で叫んだ。

 ついでに、ウサギのようにぴょんぴょんとジャンプをする。

 タンカー車の運転手は私に気が付いたのか、横50mといった具合の場所で止まる。窓がそこから開くと、赤髪の姉貴という風貌の女性がこちらに顔を見せた。

「なんだ?あんた、エンストかい?」

「そうです~!」

 彼女はドアを開くと、外へと出た。

 こっちに来いと手招いている。助かった。後は…理不尽な要求をされないと良いが。

 「そのタンクの後ろに若干のスペースがあるから、そこにバイクを結び付けてくれ。ガソリンはあげられんが、国までは連れてってやる」

「助かりました。ところで、旅人ですか?」

「いや、うちは違う。この先にオーパーツの国に住んでる。そういうあんたこそ旅人だろ?」

「そうよ」

 それにしても立派なタンカー車だ。これだけの大きさの動いている乗り物を見たのは初めてだ。記録の書物を取り出すと、パシャパシャと写真を取った。

「あ、それカメラってやつだろ?見たことあるぞ」

 若干違うし、決してカメラではないが、面倒なのでそういうことにしてしまおう。

 私はそれに頷くと、カメラを知っているというのは、物凄いレアな出来事だと気が付いた。

 オーパーツの国っていうのは、本当なのか。

 身を乗りだし、

「オーパーツの国ってことは、やっぱりオーパーツがいっぱいあるんですか!?

 と私は目を輝かせた。

 それに対して彼女は、

「あるぞ、あるぞ!あんたみたいなオーパーツの持ちの旅人が良く来るけど大体驚くからな。国についてからのあんたの顔を見るのが楽しみだ」

 と得意げに鼻を鳴らす。

 ドンッと私の背中を叩くと、助手席へと背中を押した。

「さぁ、乗った乗った。時間が勿体無いぞ」

 助手席に乗り込んだ私はミラーで後ろを確認した。それにしても大きなタンカー車だ。これだけの大きさなら、砂の深い場所でも楽々と移動する事ができるだろう。

「さぁ、いくよ」

「お願いします」

 彼女がアクセルを押すと、グォオとエンジンが唸る。タイヤが砂を絡める音がして、ちょっどずつ前へ前へと動き出した。

「うちはシュルーナっていうんだが、あんたは?」

「アイリです。ところで、後ろのタンカーには何か入ってるんですか?」

 大きなタンカー車だが、普通なら後ろにこんな大きなタンカーをつけて走る必要性はない。といより、じゃまだ。バイクだって荷物の量が増えれば、それだけ燃費が悪くなる。

「あぁ、そういや言ってなかったな。うちは運び屋なんだ」

「運び屋?」

「うちの国はにはな、石油の採掘技術がまだ残ってるんだ。だから、まだ国として残っていられているし経済みたいなのも少しある。だけどな、採掘所が少し街から離れててな」

 街での話は本当だったのか。

「今は輸送中ってことですか」

「大正解」

 シュルーナは片手をハンドルから離すと、グッジョブとした。ずいぶん陽気な人だ。陽気な人がいるところには陽気な街になる。

「見えたぞ、あれがオーパーツの国だ」

 言われてその方向を見た。

 数日前に見た旧文明の都市の跡地には見劣るものの、立派な建物が遠くからでもはっきりと分かる。気になるのは、大きくて丸いドーム状の建物。

 古代ギリシャ…といっても今ではもはや伝説級の話だが、そういったものに出てきそうな建物。闘技場というのが正しいかもしれない。

 だけど、建物自体は旧文明の力で建てられたような雰囲気が少し醸し出す。

「やっぱり気になるよな、あの建物」

 私がその建物に目を奪われていると、シュルーナが横から声をかける。

 シュルーナノの方を振り向き、

「ええ、まさか闘技場とかですか?」

 と私は尋ねる。

「いや違う。旧文明のスタジアムを改造して作られた…ギャンブル会場さ」

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