第21話 この滅び行く世界にりんごの木を


 管理人が言っていた北へと足を向けて2日が経った。

 こちらの方角にはワームの住処では無いようで、全くと言っていいほど見かけなかった。一度だけ遠くにその影を確認した程度である。

「そろそろ日が暮れそうね」

 ボルドから貰った時計で時間を確認しながら、空を見上げた。

 段々と沈みゆく太陽の光。その赤い光の手前、何かを見つけた。

 ゆっくりと近づいていくと、そこにあったのは砂漠の砂に埋もれた木であった。

 辺りを掘り起こしてみると、すぐに根っこが見つかる。

 そういえば、長の友達が北東方面で木を見てきたとか言っていたな。もしかしたらこれがそうなのかもしれない。

「うん?」

 折れた木の切り株を見てみると、不思議なことにそこから小さな緑色の芽が出ているのが見えた。

 地下に水脈でも通っているのかな?

 砂をどかして下へと掘り進めていくと、水こそ湧かなかったが微かに湿っている土へ変わっている事が分かった。


 管理されていない木だ。

 

 あの管理人や白衣の男達に見守られずに育った立派な木。

 誰にも看取られずに、その生涯を終え。

 そして、そこから新し生命が芽吹いている。

 思い立った私は、ポケットに大事に入れていた、かじりかけのりんごを取り出した。

 死ぬ気で食べることも出来るが、そんなことはしたくない。

 それを掘った穴へとそっと置いて、土を上へから被せた。


「次に来るまでに、食べれるりんごを実らせてね」


 そういうと、上から少しだけの水をかけた。

 形あるものは、遅かれ早かれ消えてなくなっていく。それが人間であれ文明であれ、なんでもいずれはそうなる。

 こうやって木のように新しい芽が芽生えても、それは同じに見えて同じではない。命に変わりなど無いのだ。

「そうね。もう行こうかな」

 パンパンと手に付いた砂をはたいた。どうせここに来ることなど二度と無いだろう。

 そして、どうせりんごの木が生えてもそこには、食べたらゾンビになる悪魔の身が生えるだけだ。


 にこにことしながら私は、

「このりんごの木で、誰かゾンビにならないかしら」

 と去り際に呟いた。


 誰にも聞こえぬその声は、きっと何年後かにここを通る誰かの心の奥底へと、響くことだろう。

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