第11話 革命

PM21:00 きょうしゅうロイヤルホテル 21階 大ホール


「ゴホン、首相秘書を務めさせていただいております。

ホルスタインです。このたびは、首相主催の年越しパーティにお集まりいただきまして、

誠にありがとうございます。今年もあと残り3時間程となりました。

短い時間かもしれませんが、良い思い出をお作りください。では、首相の挨拶を」


「みなさぁん、今年も終わりですねぇ。私のぉ支持率もぉ今年はぁ上昇してぇ、

まぁ、経済も良くなってぇ、まあいい方なんじゃないかなぁ・・・。

とにかくぅ、今年もォ終わるからぁ楽しぃもぉ!」


彼女は、そんなスピーチを黙って聞いていた。

(あんなのが首相だよ・・・、世も末だね。でも、もうすぐそれも終わりを迎えるけどね)


ふと、天井の方に目をやった。



パーティが始まる1時間前、このホテルの一階には・・・


「こんな高級なホテルは初めてきましたよ!」


「一般市民は気楽でいいよなぁ...」


ツチノコが愚痴を漏らす。


「このホテルの上には、何かしでかすかもしれないヤツがいるのに。

つーか、一課の奴はさぁ、脅迫じゃねぇからとか言いやがって・・・」


「取りあえず、危ないと思うのは首相です!」


「わかってる・・・」


すると二人の目の前に、現れたのは意外な人物であった。


「・・・あれ、お前は・・・」


「お待ちしていました。お二方」


「リカオンさん!何でこんな所に...」


「年末は暇ですから・・・、っていうのは嘘です。

立ち話もアレですから、一先ず・・・」


リカオンと二人はロビーのソファーへと腰掛けた。

この時間帯、人は全くいなかった。


「単刀直入にいうと、協力しに来ました」


「ヒグマやキンシコウはどうしたんだ」


「先輩方は忘年会ですよ。

私も誘われましたが、急用があるといって断りました」


「みんな浮かれてやがんなぁ・・・、警察も政治家も。単に数字が変わるだけだろ」

再び、愚痴を零した。


「ところで、協力とは?」

キリンがリカオンに尋ねた。


「私が首相の警護という名目で中に紛れ込んで、中の状況を伝えます。

何か異常があったら知らせるっていう...」


「古典的な手法だな・・・。だが、良い作戦ともいえるな」

ツチノコは肯いて見せた。


「私たちはどうしたらいいんでしょうかね?」


「外で待機してもらって、何かあったら動いてもらう形はどうでしょう」


「いいだろう...」

ツチノコは納得したようだ。


「これ、無線機です。パーティ開始は21:00です。私も準備をしないと」


「しかし、何故お前はこの事を知っていたんだ?」


「・・・、自分で調べました」


「他の一課の奴とは違うな...」


「あっ、まさかオオカミさんに憧れてるんですか?」


「まぁ...、尊敬はしてますが...」


リカオンは席を立っていった。






パーティ会場では、豪華な料理が振る舞われていた。

その様子を息を殺して、天井から見つめる。


(右腕を上げたら、上手く行くか不安っすね・・・)






PM23:00


2時間程待機していたが、リカオンからは一切連絡が無い。

二人も、緊張しながらその時を待っていた。


「後1時間で年越しちゃいますよ?」


「んなこと言ったって...、待つしかないだろ?」


内部に侵入したリカオンはサーバルを監視していた。

サーバルはそんな事をされているとは知らずに、計画を実行に移す。


右手で頭を掻いた。



(・・・やるっすよ)


口を塞ぎ、瓶の蓋を空けた。


彼女がいるのは、通気口。風が後ろから吹き抜けている。


サーバルは直ぐにハンカチを取り出し口を塞ぐ。

リカオンは、真っ先にその異臭に気づいた。


(...この匂いは!マズい!これを持っといてよかった!)


発煙筒を取り出し、会場を覆う。


「ツチノコさん!」


「ん!?どうしたんだ!?」


会場が騒然としている声も聞こえた。


(なにこの煙は!?まさかっ!)


(な、なんっすか!?これじゃあ、狙えないじゃないっすか!!)


「クロ...、早...く...サ、サーバ...」


ツチノコは急いで会場の扉を開けた。

白い煙と共に変な匂いが鼻を突く。


「キリン!口を塞げ!!」


そう言われ、キリンは口を塞いだ。

会場の中は白い煙で全く見えない。


すると、唐突に煙の中から人影が飛び出す。


「サ、サーバル!?」


「あっ!!」


その姿を捉えた二人は、すぐ様後を追う。

だが、彼女の足の方が速かった。


階段を駆け上がるが、どうしても彼女の方が早い。


ガチャッ・・・・


扉を開けて屋上へと出る。

彼女はすぐさま携帯を取り出し、電話を掛けようとした。






「・・・逃走用のヘリコプター、いや、パイロットの信者を呼ぶつもりかね」


唐突に言われ後ろを振り返る。


「あんたの策略にまんまと嵌められる所だったよ」


「タイリクオオカミ・・・・」


「私が、部下に命令したんだ。狙うとしたら、本人が直接手を下すわけがない。

なにしろ君は命を取ることに対して抵抗がある。

私をヘラジカ院長に殺させようとしてたからな。

どうせ、首相もスナイパーを雇って狙ってたんだろ」


サーバルは何も言わず、ただ、オオカミを見つめていた。


「お前の目的に置いて、邪魔な存在である警察。その中でも私を封じ込める事によって、

捜査の目を掻い潜ろうとした。だが、逆に私を敵に回したのが仇になったな」


「・・・・、それで?なになに?」


「殺人未遂で逮捕する」


「あは、タイホできるなら、してみなよ。警察の中にも信者がいるからね。

それに裁判では自分自身で弁護できるし。

私を捕まえるとか、それってただの自己満足でしょ?」


「自己満足・・・?君は勘違いをしているぞ。

私は自分の為に君を捕まえるんじゃない。きょうしゅうの為に君を捕まえるんだ。

仮に君が無罪だろうが、有罪だろうが、また何か罪を犯したら逮捕する」


「なにそれ?無限ループじゃん。知ってる?そういうサイクルは一つでも欠けると成立しないんだよ」


「・・・ほう、では何が欠ければそのサイクルは成立しなくなると思う?」


「うーん・・・」


サーバルは徐に黒く光る銃口をオオカミに向ける。


「あなたかな...」


「なるほどね」


私は驚きもせずにそれを見つめた。


「拳銃持ってないんでしょ。あははは、もしかして、大慌てで来たのかな?

私をタイホできずに、しんじゃうのかぁ。でも、平気だよ。

フレンズによって、得意なこと違うから!」



バンッ....











「えぇーっ!?」


「オオカミさんっ・・・、お帰りなさい」


「アミメキリン・・・・」


「私を庇って...」


「ん・・・?待ってよ!そんな小芝居騙されないよ!」


サーバルはアミメキリンから血が出ていない事に気づいたのだ。


「犯人は・・・、ヤギね・・・!」


「銃刀法違反で現行犯逮捕だ。こればかりは言い逃れ出来ない」


「公安でも、後で取調を受けてもらうからな!」


ツチノコも合流し、3人に追い詰められる。


「・・・この世の中は間違ってる。このままだと、この国も亡びる。

みんみ教はそれを正し、正しい世の中へと導く。それが目的だった。

私はまだ、夢をあきらめるわけにはいかない...」


そう言うと、ゆっくりと後ずさりをし始めた。


「おい、ここはホテルの最上階だぞ。わかってんのか」

ツチノコが強い口調で言う。


「“何かが変わった”人々はそれを最初、違和感と捉えるが、いつの間にか“それは当たり前だ”と錯覚する。

現実と夢の区別がつかなくなるのも、時間の問題だよ。


みんみー」







「あっ!おい!」

ツチノコが叫ぶが、時既に遅かった。



サーバルは後ろ向きに、夜の闇へと消えて行ったのだった。










後日、警察がホテルの周辺をくまなく捜索をしたが、

サーバルの姿は何処にもなかったという。


結局、あの晩パーティ会場にいた人達は、眠らされただけで危害は無かった。

首相を狙っていたスナイパーのアメリカビーバーも逮捕された。


みんみ教は分裂し、ツチノコは仕事が増えると愚痴っていた。


私たちはというと・・・


「あんな年越しはもうこりごりですね~」


キリンは警察署内でも、普通に居候していた。


「ああ、そうだな」


それを知りながらも、コーヒーを啜る。


「タイリクオオカミさんいらっしゃいますかー?」


「リカオンか。この前はありがとう」


「私ぐらいですからね。発煙筒を持って来いと指示されたとき、

何をするか全くわからなかった。眠らせて狙うなんていう発想を犯人より先にするとは・・・

流石ですね」


「ははは・・・、所で私をほめに来たわけじゃないんだろう?」


「そうでした!警視総監がお呼びですよ」



私は、アライ警視総監の元へ行った。



「失礼します」


「タイリクオオカミ警部・・・、まずは謝らなければいけないのだ」


「はい?」


「ロッジ事件で、自分の名声の為にタイリクオオカミを盾に使ったこと・・・」


私は謝ること自体が、想定していなかったので黙っていた。


「そして、誰も察知できなかった首相が狙われてる事件を解決したり、

ほっかいとうで事件も解決したり・・・、本当にアライさんは威張って何も出来ない無能なのだ・・・」


「そ、そんな自分を責めることないですよ」


「タイリクオオカミ、警視総監にならないか?」


「私がですか?」


「アライさんの様なのに任せるより、タイリクオオカミの様な優秀な存在が...」


「有り難いですが、警視総監は辞退させて頂きます。私は組織の上に立つという事が、好きでは無いので」


「では、一課に・・・」


「それも結構です。代わりに・・・」






「リカオンが昇進?本当かよ」


「そうらしいですよ。ヒグマさん。巡査部長になるって」


「でも、一体どうやったら・・・?」






「オオカミさん、昇進も一課復帰も断って良かったんですか?」


「別にいいさ。アライ警視総監からも謝られたし、もう過ぎたことだから」


「これから、どうしますか?」


「どうしようかなぁ・・・」


窓から差し込む、日の光を見ながらぼんやりと次にやるべきことを考えた。

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一匹狼の事件簿 みずかん @Yanato383

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