第10話 恩師

私は、ほっかいとうに行き、元警視総監のいる家に向かった。

いきなりの訪問は失礼かもしれないが、まぁ、彼女なら笑って許してくれるだろう。

家の住所は年賀状が届いていたので知っている。

タクシーを呼んで家の前まで来た。


噂には聞いていたが、料亭の様な立派な家だ。

インターホンを押して、応答をまった。


「はい?」


一言でわかった。元警視総監の声だ。


「いきなりですみません。お久しぶりです、タイリクオオカミです」


「おやおや!本当かい!?外は寒いから、早く入りな」


「お邪魔します」


私は、門を通り、玄関を開けた。


「・・・お久しぶりです。ジャガー元警視総監」


「やあ。久しぶりだね。連絡も無し来たから驚いちゃったよ」


「すみません。いきなりの訪問で」


「何か事情があったんだろう。さ、入って入って」


私は招かれるまま、客間に招かれた。

座布団に座り、お茶を出された。

一先ず、一口お茶を飲み話を始めた。


「きょうしゅうから、態々なんの様で来たんだい?」


「実は、最近冴えてないんです。それで、昔あなたが警視総監だった時に

そういう時のアドバイスをくれたと思うんです。その時の内容が知りたくて...」


「そんな事を聞くために来たのかい?」

驚いた顔を見せた。


「いえ、それ一つだけが理由ではありませんが、真っ先に優先してきたことはそれです」


ジャガーは腕を組み思い出すように目を瞑る。


「昔アドバイスで言ったことねぇ・・・、全然わからん・・・」


「わ、わからない?」


「何て言ったかなんて忘れちゃったよ。何年も前のことだし・・・」


(その点を考慮すべきだったか・・・)

少し誤算だった。


「遠くから来てもらったのに、申し訳ない」


「いえいえ、そんなこと。急に押しかけて来た私の方こそ失礼しました」


「ところで、もう一つ理由があるって言っただろ?それは何なんだ?」


「いえ、最近自分の周りでおかしなことが起きているんですよ」


「おかしなこと...」


「きょうしゅうの大学病院の院長の事件をご存じですか?」


「ああ、あれね」

肯いて見せた。


「私、あの院長に命を狙われたんですよ。そして、雑誌にはおかしなことを書かれるわ...」


ジャガーは、眠ったかのように腕を組んだまま下を向いている。

一通り、私が変だと思った事をジャガーに話した。


「タイリクオオカミ。ここに来たのは強ち間違いじゃなかったな」


「どういう意味ですか?」


「私も、院長の件から気になってね、昔の情報筋を使って調べて貰ったんだ。

面白いことに、芋づる式に探って行ったら一つの組織にぶち当たった」


「組織?」


「宗教団体“みんみ教”だ」


「宗教団体・・・・」


「ああ、あの団体は一件普通だが、実際はそうじゃない。

政権転覆を狙っている恐ろしいカルト集団さ」


「せ、政権転覆...」


「この国の権力者になり替わろうとしている」


「なんでそんな事を・・・」


「教祖の思想だな。表向きのトップはスナネコだが、本当は・・・

本当のトップは敏腕弁護士の“サーバル”だ」


「あの、サーバルが・・・」


私は助手の裁判の時に、彼女が弁護していたのを思い出した。


「アイツは、凶悪犯罪者の弁護を昔っからやって来た。

犯人の気持ちになり、親身になって、弁護を行って来た。

そのうちに過激思想に染まっていったんだろう」


「でもどうして私を狙うんですか?」


「アイツは警察の崩壊をもくろんでいる。自分の目的が達成されるために」


「警察の崩壊・・・」

(きっと、警察の傷口の様な存在が私なんだろう。だから狙われたのか)


「近いうちに彼女は大きなアクションを起こすだろう」


私はきょうしゅうに置いて来たアミメキリンが心配になった。






「・・・それでツチノコさんはその宗教団体が怪しいわけですね!」


「そう言う事だ・・・。一課は事件性が無いと関われん。

そういう団体は公安が処理するんだが、勝手にも行動できない」


「それなら、私に任せてください!尻尾を掴んで見せます!」





一方、みんみ教本部ではスナネコとサーバルが談合していた。


「例の外人、どうするんですかぁ~?サツに捕まっちゃったじゃないですかー」


「スナネコ、アイツは逃げたんだよ・・・」


「どういう事ですかー、サーバルさん」


「本当はボカーンってやるはずだったけど、ビビッて逃げたんだ。

おまけに麻薬とか余計なおまけも付けちゃって。せっかく入国管理局の

信者を使ったのに...」


「じゃあ、あの計画は?」


「いいよ、こういう事もあろうかと別のプランを練ってるから」


「抜かりないですね」


「だって、当たり前じゃん。この腐りきった政治を確実に変えるんだから」


サーバルは、指に白い紙の封筒を挟んでスナネコにちらつかせていた。






首相官邸


「あの...、総理の提案した年越しパーティ招待状を配布しました」


「あぁ、ご苦労ねぇ!」


「警備員も手配しておかないと・・・」


「ごめんねぇ、こんな年末にねぇ...」


「いえ、総理に比べたら楽な方ですよ」





「ところで、タイリクオオカミ。

ビクビクここに隠れているのではなく、私達に出来る事を考えるべきだ」


「そうですね。彼女は政権転覆を狙っていると言いましたが、どのように政権を翻すのですか?」


「物騒な考えだが・・・、まあ結果物騒な手法を使わないと出来ないからな。

恐らく彼女は何らかの方法で、今の首相を殺害もしくは負傷させる。それで、内閣解散に追い込むんだ」


「でも解散したところで選挙は国民投票で行われるんですよ?

そんな都合良く...」


「だから、宗教団体なんだ。信者を使うんだよ。

みんみ教の信者は全国に数百万人、いやそれ以上いるかもしれないという噂だ。

選挙戦で誰か一人でもみんみ教信者が立候補してみなよ」


「・・・信者が信者に投票すると?」


「そうだよ。そして、最後は自分が政党の仮の代表と入れ替わって

自分が首相の座につくのさ」


「しかし、なぜ今?」


「今の政権が、外国に対し甘いからだろう」


「確かに最近は外国が物騒ですが・・・」


「彼女は、それが気に食わないんだろうと思う。

いち早く自分がなり替わり、軍備の増強とかを行うつもりなんじゃないかな」


「スリ総理はどちらかというと、平和思考で防衛費もあまり出しませんからね

ところで、いつ頃彼女は動きを見せると思いますか?」


「うーん・・・、全然わからん!」


「えぇ・・・」





きょうしゅうでは、キリンとツチノコがコンビを数週間後・・・


「ツチノコさん、これを見てください」


「これは?」


「首相主催年末政治パーティの招待客リストです」


「何でこんなものを...、みんみ教とは何も関係ないだろ」


「招待客の役職を見てください」


名前の横にかかれた役職をツチノコが見つめた。


「どこも行政関係者や有名企業のトップじゃないか」


「でも一人だけおかしい人が招待されているんですよ」


「・・・弁護士か」


キリンは笑みを浮かべた。


「彼女は弁護士の中では優秀ですが、組織のトップとか、そういう地位には付いていない」


「敏腕とは聞いた事はあるが、弁護士を呼ぶ理由がわからない。旧友とかではないのか?」


「首相とは同級生でも無ければ、学校も全く違うし、裁判を起こした記録は無い。全く持って接点がないんです」


「怪しいな...、そのパーティ。いつ行われるんだ?」


「12月31日です」




その日の夜、電話を受け取った。


「・・・もしもし?」


「タイリクさん、お元気ですか?」


「ああ、君か・・・、どうした?」


「12月31日、きょうしゅうロイヤルホテル...それじゃあ」


「あっ、ちょっと・・・」


(・・・・・なるほどね)

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