第5話 デート!?(中編)

バス停に着くと、みんなが降りていく。

サクヤとワシミミズクは、顔を伏せながら全員が降りるのを待っていた。

「もう大丈夫そうですね」

一通り降りたのを確認すると、2人は外に出る。遠くにジャパリカフェに向かって人々が歩いていくのが見えたが、サクヤは念には念を入れて裏口から入ることを提案すると、ワシミミズクも賛成した。

ちょうどその時、バスが折り返し運転で走り出す。

「お2人さん、いい感じだね。次の話の題材にしてあげようか?」

「面白そうですね先生!」

「全く、あんまり人前でいちゃいちゃするもんじゃないわよ。バスの中であなたたちを見ないようにするの、大変だったのよ?」

「相変わらずだね」

「えっ、なんでみんなそこに…」

走り去ったバスの反対側には、タイリクオオカミ、アミメキリン、ギンギツネ、キタキツネの4人が隠れていたのだった。

「2人が来るのはなんとなくわかっていたよ。みんなに見つかりたくないんだろう?」

「そうだけど…」

「大丈夫よ、お母さんには裏から行くって言ってあるから、テラス席で観てなさい」

「ありがとうギンギツネ」


4人(?)の配慮のおかげで見つからずに済んだ2人は裏口に周り、ドアをノックした。裏口から顔を出したのはアメリカビーバーだった。

「あ、お2人さんも来たッスね。アルパカさんから話しは聞いてるっすよ」

「ありがとう」「ありがとうなのです」

ビーバーに連れられて裏口から入ると、勢いよく立ち上がる音と共に物凄い声が聞こえてきた。

「ぺパプっ!!ぺパプなの!!?」

「違うっすよ…」

「まだ会えないのね…」

ガタン、と力なくその人は椅子に座り込む。

キョトン、とサクヤとワシミミズクがその人を見つめているのに気づいたビーバーが紹介してくれた。

「あの人はマーゲイさんッス。『熱狂的な』ぺパプのファンらしいッス…。手伝ってくれるらしいッスけど、大丈夫ッスかね…」

不安そうな表情を浮かべるビーバーを見ている2人まで不安になってくる。

そこでオオカミとアミメキリンが店内に入ってきた。

「おや、二人とももう来てたんだね。そしてキミがもう1人の手伝いの…?」

「ぺパプ!ぺパプじゃない!」

2度続けて外れたことにより文字通り悶絶しているマーゲイに、さすがのアミメキリンも引き気味だ。

そこにアルパカとオグロプレーリードッグが戻ってきた。

「あら、みんな揃ったんだね〜」

「サクヤ殿とワシミミズク殿も助けてくれるでありますか!」

「いや、色々あってね、今日はテラスから観させてもらうんだよ…」

「そうでありましたか!これは失礼したであります!」

きちっと敬礼をするプレーリーをよそに、マーゲイは机に突っ伏して完全に意気消沈している状態だ。

そんなマーゲイにアルパカも苦笑いせざるを得ないようだ。

「あはははは〜…」


オオカミとアミメキリンが観客の誘導に行き、残り6人(5人)でぺパプとスナネコが来るまでおしゃべりしていると、裏口をノックする音が聞こえる。

「はーい、今行きますからね〜」

アルパカが裏口に向かう。マーゲイはもはや反応すらしなくなっている。

しばらくしてアルパカが戻ってきた。マーゲイが死んだ魚のような目でちらっと見やると、みるみるうちに生気が戻ってきた。

「アルパカさん、今日はありがとう!わざわざ私たちのステージを開催してくれるなんて、嬉しくてしょうがないわ!」

「ぺ゛パ゛プ゛ッ゛ッ゛!!!!」

マーゲイはそう叫んだ後、鼻血を吹き出しながら倒れてしまった。

「だ、大丈夫ッスか!?」

慌ててビーバーが介抱する。まるで天国にいるかのような笑みのマーゲイだったが、そのままにしておくわけにもいかない。ビーバーが思いっきり肩をゆすると、正気を取り戻したようだ。

「はっ!私は何を…!」

「あなた、大丈夫…?」

ぺパプの5人は完全に困惑している。そしてワシミミズクもまるでごみ溜めを見るかのような目でマーゲイを見ている。サクヤはもはや苦笑いしかできない。

そんな人々をよそに、マーゲイはいきなり立ち上がり、自己紹介を始めた。

「私はマーゲイと言いますっ!ぺパプの大ファンなんですぅ〜!」

ぐへへへと笑いながら舐めまわすようにぺパプを眺め倒すマーゲイに若干引きながらも、ぺパプの5人も自己紹介を始める。

「私たちもまだ名乗ってなかったわね…。ロイヤルペンギンのプリンセスよ」

「イワトビペンギンのイワビーだぜ…」

「ジェ、ジェンツーペンギンのジェーンです」

「コウテイペンギンのコウテイだ」

「フルル〜」

「何ペンギンか言うのよ!」

「フンボルトペンギン〜」

「あなたは相変わらず能天気ね…」

どうもフンボルトペンギンだけこの状況に気づいていないらしい。

一通り話が終わったところで、さっきから考え込んでいたサクヤが一言呟いた。

「ジェーン…?」

「…サクヤさん?」

「ああ、やっぱり、高校の時の…」

ジェーンとサクヤは同じ高校で割と仲が良かったのだが、大学で違う学部に入ってからは疎遠になっていたのだ。

「なんでサクヤさんがこんなところにいるんですか?」

「なんでって、ここうちの母さんの店だし…」

「あ、そういえばそうですね…」

なんとなく気まずい空気が流れる。状況がわかっていないぺパプのメンバーに、ジェンツーペンギンが説明を始めた。そしてサクヤの隣にいるワシミミズクは、不審そうな目で2人を見比べている。

「まさか2人…」

そしていつの間にか反対側に回り込んでいたマーゲイもサクヤの腰を小突いてニヤニヤしながら聞いてくる。

「あなた、ぺパプに知り合いがいるだなんて、ずるいじゃないのぉ。もしかして、昔付き合ってたりしたの?」

「そんなこと一度もないから!?」

もちろん仲が良かっただけで、そんなことは一度もない。

「なら、構わないです。ただし、あまり不信を招くようなことをするとただじゃ済まないですよ?」

「あ、はい」

ワシミミズクがキリッとサクヤを睨みつける。

「なんだ、つまらないわね。付き合ってたら大スクープだったのに。あのおしとやかなジェーンさんに元カレが!ぐへへ、想像しただけで興奮するわ…!」

マーゲイは1人で勝手に興奮してまた鼻血を垂らしている。丁度ジェンツーペンギンも話し終えたようだ。

「そんなことがあったなんて、不思議な縁もあるものね」

「おー、後ろから入ると面白いですね」

ロイヤルペンギンが話し終えるやいなや、誰かが裏口から勝手に入ってきた。

「誰でありますか!生き埋めにしてやるであります!」

そういうや否や、プレーリーは裏口に走っていった。そしてすぐ申し訳なさそうに戻ってきた。

「いやあまさかスナネコ殿だったとは…。申し訳ないであります…」

「まあ、気にするほどでもないです」

「あら、スナネコもやっときたのね。これで揃ったわね!さあ、練習を…」

スナネコはロイヤルペンギンの前を素通りしてマーゲイに近づいていった。

「…相変わらずマイペースなのね…」

いくら事前に何度か会っているとはいえ、ロイヤルペンギンも呆れているようだ。

「あなたは、僕と同じネコ科みたいですね」

「あら、あなたも出るの?ぺパプばかり見てて気が付かなかったわ。せいぜいぺパプの足を引っ張らないようにするのよ」

「僕は自分がまんぞくと思えればそれでいいです」

「あら、随分と調子に乗ったこと言うじゃない。もし何かあれば私が許さないわよ」

「まんぞく…」

マーゲイの辛辣な言葉にも動じず、一通り聞き流して今度はサクヤとワシミミズクのところに行く。そんなスナネコにマーゲイはご立腹のようだ。

「何よあいつぅ!ぺパプの初校外ライブに何かあったら絶対に許さないわよ!」

スナネコはそんなマーゲイは一切相手にせず、2人に話しかける。

「あなた達は…、なんですか?」

「我々は聴きに来たのです。楽しみにしているですよ」

「これは、ありがとうございます。僕もいろんな人に聴いてもらえて嬉しいです。とはいえ、気にするほどでもないか…」

「…飽きるのが早いのです…」

困惑するワシミミズク、苦笑いするサクヤを置いて、スナネコはすたすたと奥の部屋に行ってしまった。

「ぺパプのみなさんは練習しないんですか?僕だけでやっちゃいますよ」

ひょこっとドアから顔を出して聞いてくる。それまで完全にスナネコに振り回されて辟易していたぺパプもようやく我に返ったようだ。

「ちょ、ちょっと待って、今行くわね!」

ぺパプは慌てて楽器類を部屋に持ち込み、合同での練習が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしものフレンズ―ようこそジャパリシティへ!?― 楢崎沙來夜 @sakuya_yuzaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ