七福神に福はない

詩音 澪

不運の始まり 第一語

俺は七福ななふく じん、名前に神と入ってるが神様なんて信じないというか、信じられるかっ!


というのも家に住んでいるというか、俺に憑いている七人の悪魔が…元い神様がついているからだ。


神は家の玄関の戸を開けようと手を掛けると玄関の隣の窓が割れて、勢いよく水が流れ出る。


またかっとジンは溜め息をつき、玄関の戸を開ける。


「あっ、かみさまおかえりなの」


深緑の和装を纏い、龍の骨ような杖を背負った幼いの男の子がジンを出迎えた。


「ただいま、福禄…というか俺はカミじゃなくジンだ」


福禄の脇の方からデニムのパンツでラフな装いの青年男子が現れた。


「よう、帰ってきたか、ジン」


「毘沙門、恵比寿は?」


「あぁ、あいつならさっき此処等で釣竿、振るってたな」


玄関廊下で鯛が波打つように跳ねている。


帰ってきたのに気付いて逃げたな。廊下の床で飛び跳ねる鯛を見ながら思い、ジンは靴を脱いで家に上がると靴を揃える。そして、廊下に歩みを進める。


すると廊下には大小様々な水の珠が漂っている。


「じいさん、また水煙管を使ったな」


ジンがそう呟くと近くの階段の上から声が聞こえた。


「まあ、いいじゃないの?老い先短いんだし」


その声に反応するように奥から年老いた声が聞こえた。


「誰がじゃ」


「意外と耳がいいのよね」


そう呟き、階段から丸眼鏡で黒髪を後ろで一括りした青年女子が降り立った。


「おかえりかみくん」


「だから俺はジンだっての、大黒」


「いいじゃん、神様の名前なんて曖昧でいい加減なものなんだから」


「おれはに・ん・げ・ん・だ!」


「はいはい」


大黒は軽くあしらいつつ、先程年老いた声が聞こえた方へと歩いていく。


ジンは溜め息をつき、その後を歩いていく。

居間に着くと大黒と白んだ髪と髭の老人が対峙していた。


「大黒天ともあろうものがなんと言う格好をしとるか」


大黒の姿は首もとがよれたTシャツに下はジャージという服装だ。


「神とてたまには寛ぐことも大事でしょ?」


「たまにはじゃと?いつもその格好ではないか」


「いつも、じゃないわよ、昨日は白だったもの」


今日の大黒の服装は黒一色だった。


「また、そのような屁理屈を」


「まあ、お二方とも落ち着いては如何かな、ジン様もおられることですから」


恰幅の良い男が台所の戸を開けて現れ、二人の仲裁に入る。


「余計なことを…」


ジンは誰にも聞こえないように呟いた。


「おお、ジン殿、お帰りになられていましたか」


白んだ髪と髭の老人はジンの姿を見つけるや否や声を掛ける。


「ジン殿からも聢と言って頂けないかと」


「俺が!?そんなことは…」


白んだ髪と髭の老人の言葉に大黒を見たが大黒は卓袱台に着き、左手で頬杖を突いて右手でスマートフォンを弄っている。


「寿老人様もそのくらいに、ジン様が困っておいでですよ」


台所から嶺麗しい女性が現れて白んだ髪と髭の老人に言った。


「そうですな」


寿老人は嶺麗しい女性が現れるや素直に相槌を打った。


大黒がとスマートフォンに打ち込むのがジンの横目に見えた。


「弁天、恵比寿は何処に行ったか知らないか?」


ジンは嶺麗しい女性に訊ねた。


「恵比寿様は、御風呂ではないかと、さきほどずぶ濡れになっておられたので…」


ジンは部屋を出て、風呂場へと歩みを進める。


「ジン様!今日はお止めになった方が…」


弁天の呼び止める声が聞こえたが遅かった。ジンは浴室の扉に手を掛けて勢いよく開け放つ。


浴室にいる人物と目が合う。そして、刹那の沈黙が流れる。

何故ならばそこには素っ裸の美少女がいたからだ。


沈黙は美少女から破られた。顔を赧らめると共にジンの腹部に強烈な蹴りを放った。

ジンを壁に叩き付けられた後、床に伏せると浴室の扉が力強く閉まる。


「浴室に入るときはちゃんとノックしないと駄目よ、かみくん」


大黒は床に伏せるジンの側でしゃがみ込みスマートフォンで床に伏せるジンをパチリと撮影する。


「今日は水曜日だった…」


ジンは嘆くように呟いた。


「かみくんともあろうひとが迂闊だね」


ジンは大黒の声をぼんやりとした意識の中、聞き終えると気を失った。






翌朝、ジンは自室の布団の中で目を覚ました。


「あぁ、知ってる天井だ」


「なに馬鹿なこと言ってる」


ジンは声の方へと目を向ける。そこには鯛の耳飾りを着けた男が居た。


「大丈夫か」


「最初の時に比べればな」


ジンは以前にもあった出来事を思い出す。


「で、恵比寿なにか用か?」


「飯が出来たから呼びに来ただけだ」


そう言うと恵比寿はジンの部屋から出ていった。


「じゃあ、起きるか…」


ジンは布団から出て、学生服に着替えを済ませると家が軋む音とカタカタという音が聞こえてきた。


「…はぁ」


ジンはその音で今日が木曜日であることを思い出し、溜め息をつく。


そして、机の上にある鞄を持つと意を決して廊下へと出る扉を開く。


開かれた扉の奥には家の中だというのに木々が生い茂っていた。


廊下に歩みを進めると木々はジンに道を開けるように避けていき、隠れていた床が顔を出す。


ジンは気にも止めずに居間へと向かう。


居間は昨日と同じ姿で木々に覆われているということはなかった。


「昨日の夕食ですが、ジン様は食べられなかったので」


弁天は申し訳なさげに卓袱台に着くジンの目の前に出す。


「ありがとう、弁天」


ジンが朝食を摂っている間も度々、家が軋む音が聞こえていた。


ジンは食べ終えた空の皿をまとめ、流しへと持っていき、皿を洗おうとすると弁天が止めた。


「置いといていただければ私がやりますので、それに時間がもう…」


時刻は7時半、いつもなら余裕で学校には間に合うが。


「では、お願いします」


そう言い残し、ジンは台所を後にして今にある鞄を持つと鬱蒼と生い茂る草と木々に覆われた廊下に出る。


相も変わらず、草木はジンが歩く度に道を開けるように避けていく。


そうして、難なく玄関に辿り着いたジンは靴を履き、玄関の戸を開ける。


すると家の軋む音が大きくなり、ジンが外へと一歩踏み出すと先程まで温和しかった草木がジンに向かって一斉に枝葉を伸ばす。


「おはよう!かみくん朝から騒がしいね」


ジンと入れ替わりに大黒が入ってきてジンを捉えようとしていた草木が焼ける。


「大黒、ありがとう」


「んや」


「それと俺はジンだ」


ジンはそう言い駆けていった。


そんなジンを大黒は見送る。今日は赤のTシャツとジャージ姿で。


「いやー、かみくんも毎日大変だ。特に今日は街にも不穏な気配が入り込んでいるからね」


大黒は玄関の戸を閉める。




「よっジン」


鬱々とした表情で教室に足を踏み入れたジンとは裏腹に明るい調子で声を掛ける少年が正面にいた。


「いつにも増して暗いな」


「確かにそうね、風邪でも引いた?」


少年の後ろからひょっこり、少女が姿を現しジンの顔を覗き込むように首を傾げる。


この二人はジンの馴染みで最初に声を掛けてきた少年がまゆずみ陽次ようじで少女はあさひ 千陰ちかげ


幼馴染みだが、家に住み着いた招かれざる居候たちのことは知らない。


「出掛けに気疲れしただけ、一限の間を突っ伏して回復するよ。それとヨウジ、俺はいつもそんな暗いわけじゃない」


ジンはとぼとぼと自分の席に向かう。


「色々と大変みたいね」


「あぁ、色々とな」


二人共、同じような言葉を連ねると互いに自分の席に向かう。


「全員、座れー出欠取るぞー」


教師が教室に入るなり生徒に告げると生徒は席に着く。


出欠後、すぐに一時限目の授業が始まり、その間、ジンは教師に気付かれることなく眠り続けた。

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