第捌人 『血宴劇』

パーティ開始からだいぶ経った時、会場のど真ん中にある時計柱が盛大に音を鳴らした。まるでシンデレラに十二時を告げたあの時計のようだ、と俺は思った。その音が何かの合図始まりの音のように聞こえたからかもしれない。


会場の皆様Ladies and gentlemen! 遂にこの時がやってきました!」


黒い燕尾服に真紅の仮面を付けた男性がマイクを持って高らかに叫ぶ。

そして更に続ける。


第百弍拾漆回だいひゃくにじゅうななかい、「血宴劇けつえんげき」の開幕で御座います!」

「けつえん、げき……?」

「殺人クラブが合同で行う遊びのようなものなのよ。毎年死者が出るけれどね?」

「このゲームで誰一人として脱落者を出してないのは吾ら、『青少年殺人クラブ』と『Blood Bird血の鳥』、そして『金獅子の咆哮』くらいのものかな。期間は六ヶ月、つまり半年だね。あるテーマに沿ったゲームをその期間中やるのさ。」


「まぁそのゲーム自体、安全なものではないけれどね?」と『眼球アイズ』が言う。

下手したら警察に捕まっても可笑おかしくない、巫山戯ふざけた遊びだ。


「今年は何処が真っ先に潰れるんだろうねぇ? 血の兎Blood Rabbitには余興に過ぎないんだろうけど。」

「あ、『ブラッド』。」

「料理に毒盛られてないだけまだマシな範疇だろうな、去年はそれで大幅にられたし。」

「アレは主催者側Blood Rabbitが仕組んだものじゃないよ?」

「そのくらい分かるわ、舐めんじゃねぇよ?」


ブラッド』が『ハンズ』の言葉を軽く茶化す。

肩を竦めて『眼球アイズ』が『ヘッド』を見ると、心得た風に『ヘッド』は言い合う二人の頭を掴むとほんの少し力を込めた。


「此処はお前らだけの場所では無いのだ、静かにした方が余計なモノを釣らんのだぞ? 大人しく血の兎Blood Rabbitの言葉を聞くのだな。」

「い、痛い痛いッ! 解ったからその手を離してくれッ!」

「いってぇよ、糞じじぃ!」

「全く……いつまで子供で居るつもりなのだ、お前らは?」


ヘッド』が手を離すと二人は痛みに「うぐぅ…」っと唸り座り込んだ。

ネクロ』がそれを見て呆れながら聞いていた話を教えてくれた。


「馬鹿ねぇ…騒がなければ『ヘッド』に怒られる心配ないのに。今年の題目テーマは“宝物探しマイン・スイーパ”だそうよ。」

「“宝物探しマイン・スイーパ”って事は……宝を見つければ終わりなんですか?」

「えぇそうね。けれどそう簡単にはいかないわ。殺人鬼は宝物を“奪う”行為が普通だもの。」

「じゃあ……やっぱり、人が死ぬ、可能性が高いんですね…。」

「勿論、ボクらの中で誰かが可能性だってあるし、可能性も無くは無いよ。ま、裏切りに関して言えばボクらの所属する『青少年殺人クラブ此処』はほぼ不可能だろうけれどね。」

「『名前コードネーム』を与えられた時点でもう組み込まれてるからな。」

「取り敢えず、だ。うかうかはしてられぬようだぞ?」

「みたいだねェ……。」


ヘッド』が紫煙を燻らせて言う。

もう既に血の兎Blood Rabbitは居らず、残された殺人クラブが敵チームを消しにかかっていた殺しにかかっていた

ブラッド』がしゅるっとネクタイを緩めてポケットから相方得物である両刃の鋏裁くんを取り出すと肩を竦めた。


「ま、取り敢えず〜……邪魔は殺して通ろうか。」

「吾もその意見は同意だ。」

「汚れるのは嫌いなのだけれど、死体は好きよ? 私は静寂を愛するの。」

「手前と意見が合うとは明日は槍でも降るか?」

「全く、血の気の多い事よ。」


ブラッド』の言葉にそれぞれの得物を構えて向かってくる敵を華麗に彼らは殺した。まさに──血を纏う蝶の如き鮮やかさで。

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青少年殺人クラブ 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin

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