第9話 分け前

 メルンに滞在して三日目の午後遅く、ケストナーはようやく一座に戻る事が出来た。

 旅籠はたごの前には人だかりが出来ていた。

 ケストナーは人を掻き分けて、中に入ろうとしたが、

「おい、この親仁おやじ、割り込むなっ!」

 若く荒っぽそうな男が血相を変えて、ケストナーに食って掛かった。

「こらこら、喧嘩はしてくれ」

 と、旅籠の主人が割って入った。

「あれ、ケストナー。帰って来たのかい?」

「ああ。何だ、この人込みは? 巡礼の団体さんでも泊まっているのかい?」

「ははっ、違うよ。『サロメ』が評判を呼んで、この盛況さ」

「本当か?」

「ああ。昼三回に、夜の一回の、計一日四回やっている」

「おい、それはまずくないか?」

「大丈夫だ。お前さんが市に協力しているという事で、大目に見てもらっている」

「しかしなぁ……芝居小屋に商売替えでもするつもりか?」

「それは良いかもしれん。ケストナー、こうなったらずっとメルンに居ろ」

「冗談言うな」

「ケストナー、やっと帰って来た!」

 と、ローズマリーが窓から顔を出した。

 お目当てが姿を見せた途端、歓声や口笛が巻き起こった。

「ねえ。あなたが居ない間に稼いだ分はどうするの?」

「好きにしろ。ゼーマンと二人で半分こでも、どうとでも」

嗚呼あぁ~、有難う、ケストナー。だから、あなたの事が好き!」

 と、ローズマリーはそれだけ言い残して、窓から引っ込んだ。

 ケストナーは旅籠の前にたむろしている男達から殺気だった視線をびせられて、こりゃかなわんと、早々に旅籠の中に退散した。

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