第3話 旅籠

 市庁舎での事情聴取を終えると、ケストナー達は旅籠に移動した。

「おや、ケストナーじゃないか? 久し振りだな」

 と、旅籠の親仁が出迎えた。

「部屋は空いているかい?」

「空いてるよ。何人だ?」

「三人。男二人に、女が一人」

「三人? 随分と少ないな。他の奴等はどうした? 辞めちまったのか?」

 行く先々で聞かれる質問だった。

 商売道具を部屋に運び入れていると、他の泊り客等が話し掛けてきた。

「あんた、旅芸人の一座かい?」

「そうですよ」

「ほら、そうだ! 当たりだ」

「何の芸をするんだい?」

「芝居ですよ」

「芝居だって」

「ほぅ」

「でも、今回はメルンは素通りで、明日の朝にはリューネブルクに向かうんですけどね」

「へー。だったら今夜、ここで少しばかり芝居を見せてもらえないかな?」

「ご依頼とあらば、お安い御用で」

「心付けも弾むし。酒もおごろう」

「それは何より」

 日が暮れてから、広間で『サロメ』を上演した。

 義父ヘロデ王の酒宴で踊ったサロメ。褒美ほうびとして好きな物を求めよと王から言われるが、母ヘロディアは洗礼者ヨハネの首を強請ねだるよう娘に迫る……

 観客は総勢二十人程だった。

「今晩は、皆さん。今宵こよい、ケストナー一座の舞台にお出で頂き、感謝を申し上げます。当一座は見ての通り、三人だけの貧弱な劇団。故に行く先々で一々楽師を手配して、やり繰りする始末。全くお粗末な状態で。どなたか、役者志望の活きの良い若者を御存知ないでしょうか? そこのあなた!」

「俺かい?」

「はい、あなたです。息子さんは居ませんか? 余っているなら、一人ぐらいどうです? 私に預けてみませんか?」

してくれよ」

「そう言わずに。娘さんでも良いですよ」

「断る!」

「そうはっきりと言わずとも。甥っ子か、姪御さんは?」

「そんな事をしたら、恨まれちまうよ」

嗚呼あぁ、そうですか。それじゃあ、仕方がない。他には……ええっと」

 観客を見渡すと全員、視線をずらすか、首を横に振るかしていた。

「あれま。皆さん、拒否。こいつは参った……とまあ、こういう次第でして。今宵の舞台は楽師不在でご容赦下さい。代わりに私めが胡弓を弾きながら、同時に演じてみせますので、どうかご覧下さい。演目は『サロメ』」

 先ずは胡弓で序奏を演奏した。

 ふと、入り口に目をると、クルムの姿が見えた。

 親仁がそれに気付いて、直ぐに駆け寄った。何やらこそこそ話していたかと思うと、クルムに椅子に座るようを勧めていた。

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