3 メルンの役人に人攫いを引き渡したこと。ならびに地下牢に入れられている男の無実を証明したこと。

第1話 門番

 何しろ馬車三台をつらねての行路ゆえ、進む速度は遅かった。

 先頭の馬車はケストナーが操り、荷台にはぐるぐる巻にした人攫ひとさらい達を乗せていた。

 真ん中のが一座の馬車で、ローズマリーが手綱を握っていた。

 最後尾の一台はゼーマンが操っていた。

 二十人程の子供達は後ろの二台に分乗させていた。

 メルンに到着したのは午後三時頃だった。

 ケストナーは市の入り口で、顔見知りの門番に声を掛けた。

「やあ、こんにちわ」

「あんたかい。一年振りになるかね?」

「ああ」

「今年は何をやるんだい?」

「いや。今年は此処ここではやらないよ。次の興行地はリューネブルクなんだよ」

嗚呼ああ、そうだ。今、小屋じゃあ、イギリスの劇団が芝居を打ってるんだった」

「そう。今回は締め出されてね。断られたよ」

「そいつは残念だ。じゃあ、今晩一泊するだけか?」

「ああ」

「ん? この三台、全部一座の馬車かい?」

「ははっ、まさか。真ん中のが一座の馬車で、先頭と最後尾の二台は違うよ」

「はぁ? じゃあ、何だ。その二台は道にほっぽり出されていたのを、くすねて来たのか?」

「違う。ちょっと、こっちへ。荷台の中を見てくれ」

 と、ケストナーは門番をいざなった。

「ん? おい、何だ、この男達は?」

「人攫いさ。後ろの二台に攫われて売り飛ばされそうになった子供達が二十人程乗っている」

 門番は後ろの二台を確かめると、直ぐに戻って来た。

「こりゃ大事だ!」

「どうする? このまま市庁舎まで馬車を進ませようか? その方が手間がはぶけるだろう?」

嗚呼あぁ、そうだな。じゃあ、自分が先に行って知らせて置くから、後から来てくれ」

 門番は同僚に声を掛けると、町の中心部へと駆けて行った。

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