第4話 衣装箱

「状況はかんばしくないですね」

 と、ゼーマンが眉間びかんしわを寄せた。

「今来た道を先に進んでも、馬車だと行き止まりになるかもしれませんし。戻って、奴等やつらと鉢合わせになったら、それもそれで」

「そうだな」

「奴等がこの子が居なくなった事に気付いてなければ良いんですが」

 その時だった。

 先程の男が二人、徒歩で姿を見せた。こちらに近づいて来る。

 ユッタはローズマリーと共に幌馬車の荷台に居た。

「どうした? 何か忘れ物か?」

嗚呼あぁ……子供が居なくなったんだ。一人。具合が悪くて、馬車の荷台で寝かせていたんだが。今さっき、ふいと荷台をのぞいてみたら、乗っていなかった。何時いつの間に降りたんだか」

「そうか。それは心配だな」

「ああ。十歳の女の子なんだが。髪の長い」

「見たか?」

 と、ケストナーはゼーマンに聞いた。

「いえ」

「女の子の名前は?」

「……ユッタ」

 と、男は少し間を置いて答えた。

「自分等も探そう」

「そうか。助かる……」

 暫く一緒に捜し回ったが、男達は早々に捜すのを諦めてしまった。

「小川の方にも行ってみたら?」

 と、ケストナーが提案してみたが、男の方はどうも乗り気でない様子で。

嗚呼ああ……済まないが、馬車の中を確かめさせてもらえないかな?」

「馬車の中を?」

「疑って悪いが」

「いや。気が済むまで、どうぞ」

 男が荷台を覗いた。

「ん?」

 中にはローズマリーが一人で腰掛けていた。

「こんにちわ」

「こんにちわ、お嬢さん……その箱は?」

「衣装箱ですよ」

「もしかして、旅芸人の一座?」

「そう」

「ふふっ」

「可笑しい?」

「ああ。いい加減、茶番はお終いにしないと」

「どういう意味ですか?」

 と、ケストナーが男の背後から問い掛けた。

「悪いが、ユッタがこの馬車に乗るのは見てたんだよ」

「なら、最初からそうと言えばいいのに」

「おい! 人が大人しくしてりゃあ、いい気になりやがって。つけ上がるな、この餓鬼がっ!」

 男が掴み掛かって来たが、ゼーマンが横手から飛び出して、一撃でのした。

「てめえ!」

 残る一人もゼーマンに襲い掛かったが、軽くいなされて、これまた餌食えじきあいなった。

、馬鹿ねえ。ゼーマンにかなうとでも思ったのかしら?」

 と、ローズマリーが吐き捨てながら、衣装箱のふたを開けた。

「もう大丈夫よ」

 肘を着いて半身を起こしたユッタは安心したのか、笑顔を見せた。

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