2 ケストナーの一座が人攫いの一団と悶着を起こしたこと。

第1話 煙

 クラーゲン男爵の関を通過した後、小雨の中をだまし気味に進んで、ラッツェブルクで馬車を止めた。予定の半分の2ドイツ・マイルしか進んでいなかったが、その日は町の旅籠はたごに泊まった。

 二日目。早朝、まだ雨は残っていた。二時間程で雨が止み、昼飯はメルンの町で取れればという淡い期待を抱いて出立した。

 天候は見る見る内に持ち直した。道路の状態も思っていた程は悪くはなかった。

ようやく春らしい陽気ね」

 と、ローズマリーが声をはずませた。

「ふっ」

「あら、何が可笑おかしいの?」

「そりゃあ、幌付きの荷台の中で毛布を頭から被って、丸くなっていれば寒くはないさ」

「あら、そう?」

「ああ。だろう、ゼーマン?」

「ええ」

「あっ! 煙だわ」

 と、ローズマリーが身を乗り出した。

「何かしら?」

「んー。焚き火の煙じゃないか?」

「ジプシーかしら?」

「かもな」

「行ってみない? お裾分すそわけしてもらえるかも」

「現金だな」

「あら。行けば、暖かいスープが飲めるかもよ」

「……」

「ねえ、行きましょうよ」

「おい、横道にれるのは」

「大丈夫。わだちはまったりしないわよ」

「いや、道草を食うのは」

「ゼーマンはどう? 賛成でしょう?」

「まあ、行っても」

「ほら、二対一。決定~!」

「少し寄るだけだぞ」

 と、ケストナーは念を押した。

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