第2話 立ち話
まだ昼前、前方に人が大勢群がっているのが見えてきた。
道路の脇には何台もの馬車が連なって停められていた。
「あれが新しく出来た関ですかね?」
と、ゼーマンが口を開いた。
「みたいだな」
「
「仕方がないさ」
「んん……お昼なの?」
後ろの荷台で横になっていたローズマリーが目を覚ました。
「違う、関だ」
「何だ、関か~!」
「まだ昼前だし。待たされそうだから、寝てていいぞ」
「は~い」
と、ローズマリーは再び横になって、毛布を被った。
役人が一人近付いて来て、叫んだ。
「おい、そこの。馬車を脇に寄せろ!」
「へい~」
と、ゼーマンが手綱を操る。
「並んでくる」
と、ケストナーは馬車を降りた。
「やあ。随分と混んでるようだな」
「ああ、
と、最後尾に並んでいた男が答えた。
「去年通った時には無かったのに」
「つい最近出来たのさ」
「らしいな」
「何だ、知ってるのかい……
「領主様。シュヴェリーン家」
「建前はそうさ。でも、違う」
「実質は誰だと?」
「あんた、この辺の人じゃないね」
「ああ」
「なら、仕方がない。知らなくて当然だ」
この男は喋りたくて、うずうずしていた。
「ガイツ・フォン・クラーゲン男爵さ」
「金貸しの?」
「あら、知っておいでで?」
「元農夫だろ。金で爵位を買った」
「ふふ。半分当たりで、半分外れ」
「ん! 元農夫って話だろ?」
「そう。皆、元農夫だって言っているけど、本当は酒蔵の番人をしていたんだ」
「詳しいな」
「そりゃあ、あちこちの町を歩き回っているからね」
「何の商売を?」
「靴職人さ」
「遍歴職人?」
「ああ。そういうあんたは?」
「旅芸人の一座さ。芝居の」
「何て一座だい?」
「ケストナー一座」
「ふ~ん。知らないね」
「そうかい。昨日までリューベックで興行していたんだが」
「リューベックの前は何処で興行してたの?」
「ハンブルク」
「その前は?」
「ブレーメン」
「じゃあ、駄目だ。自分が最近まで住んでいたのはオルテンブルクだからね」
「そっちの方までは行かないな……で、今度は南の方に行くのかい?」
「ああ。ブラウンシュバイクに。そっちが生まれ故郷なもんで、久方振りに帰ろうかと思ってね。嗚呼、ケストナーさんだっけ?」
「ああ」
「自己紹介が遅れたが、自分はヒンザイン……えっと、何を話していたんだっけ?」
「農夫じゃなくて、酒蔵の番人だったって話だろ。」
「そうそう。酒蔵の番人だったんだ。元の名前は
「知らない」
「ボーデン(大地、地面、耕地。あるいは船や樽の底、床)」
「成る程」
「ははっ……でな。ボーデンの父親も酒蔵の番人だったそうだ。その後、息子も番人として雇われた」
「親子二代続けてか」
「そうだ。しかしな……そこの主人の一人娘が
「
「そういう事。その後、ボーデンは蔵元の経営の
「おい、こら。お前、列に並べ!」
後から来た、事情が解らない旅人が、役人に怒鳴られていた。
「
と、ビンザインは首を引っ込めた。
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