1 ケストナーの一座がメクレンブルク公国で、新たに出来た関を通過するのに足止めを食ったこと。

第1話 南下

 ケストナーは芝居を上演する旅芸人の一座を率いていた。

 冬の間は寒さを避ける為、ドイツ北部一帯を回っていた。山が連なり冷え込む南部に比べれば、北海に流れ込む暖流の恩恵で増しに過ごせたし、雪に悩まされる事もまれだった。

 春を迎えるにあたり、一座はかつて北方貿易で栄えた帝国都市リューベックでの興行を最後に、一路南へと旅立った。

 早朝にリューベックを出立。次の目的地であるリューネブルクまでは8ドイツ・マイル(六十キロ)。二日間の行程を予定しているが、生憎空は愚図ぐずついていた。

「何だが天候が怪しいですね」

 と、幌馬車の手綱を握っているゼーマンが心配そうに空を見渡した。

「もう降りそうなの?」

 と、後ろの荷台に乗っているローズマリーがただす。

「う~ん。微妙だな」

 ケストナーは降らない事をただ願うしか出来なかった。

 北ドイツの道路事情は総じて何処も良好ではなかった。雨後のそれと言ったら最悪で、わだちくぼみと堆積たいせきした泥が馬車の車輪を飲み込み、行き交う者達を難儀させた。

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