第8話 抱擁

 ケストナー達は芝居小屋へと、夜道を急いだ。

 人に見られたらまずいと、司祭から借りた上着をマルタに頭からかぶせて着せた。

「ヘルマン。明け方にも街を出たいんだが」

「ああ、そうだな。その方が良い」

 ケストナーは部屋に戻るや、ローズマリーを起した。

「んん……何よ?」

「この子も一緒に寝てくれ」

「誰、この子?」

 ランプを近付けてやった。

嗚呼あぁ、マルタ。でも、どうして此処ここに?」

「一緒に旅することになった」

「はぁ、どういう事?」

「んん……」

 遂に、ゼーマンも目を覚ました。

「あれ? その子は」 

「一緒に連れて行くんだって」

「はあ?」

 と、ゼーマンも全く理解が出来ていないでいた。

「親は? まさか黙って連れて来たんじゃないでしょうね?」

「母親は今は牢屋だ」

「何で?」

「この子を突き飛ばして、死なせてしまった」

嗚呼あぁ、そういう事。じゃあ、使ったのね?」

「ああ」

「でも、本当に連れて行っていいの?」

「残念だが、また同じ事を繰り返す恐れがある」

「そう……」

 ローズマリーは顔をマルタに向けた。

「あなたはそれでいいの?」

「うん」

「旅は辛いわよ。後悔しない?」

「……」

「雨が降れば、ずぶ濡れになるし。夏はだる様な日差しの中を馬車が進んで行くし。冬は吹雪で指が千切れそうになるのよ」

「……」

「我慢出来るかしら?」

「それは大袈裟」

 と、ゼーマンが横から突っ込んだ。

うるさいわね! 覚悟の程を聞いているのよ」

「ああ、悪かった」

「解ればよろしい。で、どうなの? 後悔しない?」

「うん。後悔しない」

「そう……じゃあ、ベットに入りなさい。さぁ」

 マルタは着ている上着を脱ぐと、ロ-ズマリーの布団の中に潜り込んだ。

「明朝、日の出前に此処ここを出る」

「ええ、そうね」

「よく寝て置け」

「ヘルマンには?」

「了解済みだ」

「あら、そう……踏んだり蹴ったりね、彼は。客の入りが良かったのに」

「早く寝ろ」

「はいはい」

 明かりを消して暗闇に包まれたが、その晩は誰しもが寝付けなかった。

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