第7話 復活
「んん……」
マルタが漸く目を覚ました。
「痛っ」
「大丈夫かい?」
「あっ、砂男!」
と、マルタは右手で後頭部を押さえながら、その目を大きく見開いた。
「あれは只の仮面だよ」
と、ケストナーはお
「気分はどうかな?」
「司祭様……ここは、教会?」
「そう、教会だ。マルタは、何があったか、憶えているかい?」
「……」
「お母さんに怒られた? 叩かれて。突き飛ばされた?」
マルタは
「マルタはお母さんの所に戻りたいかい?」
「……」
マルタは司祭の質問には答えず、ケストナーの方を見遣った。暫し見つめ合い、再び司祭の方を向いた。
「私、暗闇の中に居たの。何も見えなくて。何も聞こえなくて。誰かを呼ぼうとしても、声が出ないの。だから歩いてみたのだけれど、何処までも限りがなくて。疲れて、床に座り込んだら、床が無くて。ちゃんと座っているんだけど、手で触るとそこには何も無くて。底が無いような……そこに落ちるんじゃないかと、怖くて。動けなくなって」
「それで?」
「ずっと長い時間、そこに座っていたの。そしたら突然、目の前がふわっと明るくなって。とても暖かかったの。太陽の陽の光みたいに。私は立ち上がったの。もう、何も怖くなくなって、歩き出してたわ。光の中に向って……」
マルタは再びケストナーの方を向いた。
「その光の向こうに居た……あなたが」
「マルタ」
と、司祭は語り掛けた。
「この人が君を生き返らせてくれたんだ」
「私は……死んだの?」
「そうだ。頭を打って」
マルタは後頭部に手を当てた。未だ傷みが残っているらしかった。
「彼が自分の命を分け与えて、君を生き返させてくれたんだ」
「そうなの?」
「ああ」
と、ケストナーは短く答えた。
「どうして?」
「なぜかな?」
「半分も命をくれるなんて」
「何で解るんだい?」
と、ヘルマンが疑問を投げ掛けた。
「まさか、会話を聞いていた?」
「ヘルマン。彼女はもう力を持っているんだよ」
「力? じゃあ、もう妖術師ということなのか?」
「そうだ」
ケストナーは事実をはっきりと断言した。
「マルタ。君はどうする? お母さんの所に戻るか……あるいは、別の選択も有る」
「別の?」
「私の一座と一緒に、国中を旅して回る。ぐるぐると」
「ぐるぐる?」
「そう」
「マルタ。お母さんと暮らせる事が出来るのなら、それに越したことはない」
と、司祭が代わりに請け負った。
「だけど、また同じようなことが起こったら。その時、この人は町には居ない」
「……」
「何処かを旅しているだろうから」
「暗闇の中からは二度と出て来れないという事?」
「うむ。良い行いをしている子であれば、その
司祭が優しく問い掛ける。
「どうする、マルタ?」
「行きます」
「彼と共に?」
「はい」
マルタの顔に迷いは無かった。
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