第5話 闇

 その晩の出来事だった。

 明かりを消して、もう休んでいたのだが……誰かが来ているのか? 微かに漏れ聞こえて来る話し声で、ケストナーは目が覚めた。

 えらく長々と話し込んでいるなと思っていたが、ようやく客人は帰ったようで、話し声は途絶えた。だが、ヘルマンが自分の部屋に戻った気配は感じられなかった。

 一体何事だったのか気になり、起き出してみた。

 暗闇の中を進んで行くと、木戸でランプを片手に下げて、ヘルマンが突っ立っていた。

「どうした、ヘルマン?」

「ケストナーか」

「客が来てたのか?」

「ああ……起しちまったか?」

「いや。それより大丈夫か?」

「ん……」

「何があった?」

嗚呼あぁ……今日、なかなか帰ろうとしなかった女の子のこと、憶えているか?」

「覚えているとも。マルタとかいう子だろ」

「……」

 ヘルマンの口が重い。

「あの子がどうかしたのか?」

「亡くなった」

「亡くなった?」

「ああ」

何時いつ?」

「ここから帰って、直ぐ後らしい」

「何があったんだ?」

「んん……母親に暴力を受けて、それで亡くなってしまったらしい」

「虐待か?」

「ああ。母親は偏屈というか、気位が高いというか。ちいとばかし、これというか」

 と、ヘルマンは頭の横で指で円を描いてみせた。

「しかし、まさかこんなことになるとは」

「……」

「突き飛ばされて、頭を打って、それが致命傷になったらしい」

「……」

「母親は今、役人に拘束されちまったそうだ」

「遺体は今、何処に?」

「聖ニコライ教会に運ばれたそうだ」

 ケストナーは外着を羽織ると、木戸に向って歩き始めた。

「何処に行く?」

「教会だ」

「待て、わしも行く」

 と、ヘルマンが追い掛けて来た。

「おい、どうするつもりだ?」

「……」

「まさか妖術を使うのか?」

「……」

「生き返させるのか?」

「そうだ」

「出来るのか?」

「ああ、出来るとも」

 ケストナーははっきりと断言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る