第4話 砂男

 その女の子の名前はマルタと言った。

 その日は都合三度上演したが、マルタはまんまと観劇した。

 さぞ御満足と思いきや、とっくに芝居は終ったのに、帰ろうとはせず、何時までも客席に座っていた。

 その内に、ローズマリーやゼーマンに付きまとって、お喋りを延々と始める始末。

 だが、既に陽は大きく傾いており、暗くなるのは時間の問題。

「そろそろ家にお帰り。お母さんが心配しているよ」

 と、ケストナーは一度声を掛けた。

 けれども、マルタは帰る素振りを一向に見せない。

 その様子を見て、今度はヘルマンが声を掛けた。

「マルタ。お母さんにまた怒られるぞ」

 すると、途端に女の子の表情は沈んでしまった。

 さすがに何時までもここに居させるのは不味い。もう、ランプの明かりが要る程に暗くなっていた。

 ケストナーはマントを羽織り、ずた袋を背負って、女の子に近付いた。

「お嬢ちゃんや」

「……」

 こちらの異様さに、マルタは表情に緊張をみなぎらせる。

「お家に帰らないのかい?」

「……」

「帰らないのなら、この砂を頭から掛けてしまうぞ」

 それは砂ではなく、その辺で掴んで持って来た只の土なのだが……マルタはそんなものを掛けられたら堪らないとばかりに、二、三歩と後退あとずさった。

「砂を被っちまったら、もうお目めのまぶたが重くて重くて、苦しくなる」

「……」

「耐え切れなくなって。一度目を閉じてしまったら、それで一貫の終り。そのままコクリ、コクリと寝入ってしまう……」

 ケストナーはマントで顔を隠した。そして次に、マントをぱっと翻しタ時には、顔に砂男のお面を着けていた。

「その間に、お前の目ん玉を刳り貫いてしまうぞっ!」

「キャー!」

 演技が堂に入り過ぎたか、マルタは一目散に外に出て、家に帰ってしまった。

。帰っちゃった。ケストナー、やり過ぎよ。あんなに驚かしたら、きっと夢に出てくるわ」

 と、ローズマリーが呆れ顔で言った。

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