第3話 演目

 出し物は兵隊劇『募兵係にはご用心』。

 時は今から二百年前、カール(五世)大帝の時代。

 主人公のアントーンは食い扶持にあぶれた、先の見えない農家の次男坊。彼は募兵係の甘言にはまって、傭兵ランツクネヒトになる。そして、部隊内や戦場でとんちんかんな騒動を巻き起こす……というドタバタ劇であった。

 物語は最終的にイタリア戦役、果てはローマ略奪(サッコ・デ・ローマ)へと突入して行くが……ねた晴らしはここまで。後は、木戸銭をお払いになって、中でご観劇を。

 アントーン役にはゼーマン。

 ケストナーは募兵係、入隊時の書記係、古参兵、憲兵、連隊長と一人で五役。

 ローズマリーは輜重隊の酒保しゅほの女主人。

 何せ三人だけなので、ほとんど掛け合いの連続、漫談調の悲喜劇。

 劇の最中、ケストナーは例の女の子が後ろの方の客席にちょこんと座っているのに気付いた。

 どうやら親から小遣いを貰えたらしい。女の子は楽しそうに観劇していた。歯を見せて大いに笑い。目を輝かして……

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