第17章 もしも願いが叶うなら 1
「傷をお見せください!」
ようやく口を
レティシアは短剣で、ストラの裾を切り裂いて即席の包帯を作った。帯から
戦闘の音はここまで聞こえないが、ローマ軍に合流するまで本当に安心はできない。
ヒルベウスはされるがままになっている。傷薬を塗り、包帯を巻く内に緊張が緩み、思わず言葉がこぼれ出る。
「素手で刃を掴まれるなんて……無茶をし過ぎです」
言った途端、息を詰まるほど強く抱きしめられる。
「わたし以上の無茶をした者が、何を言う」
不機嫌極まりない声に、思わず
「何だこれはっ⁉」
激しい怒声に弾かれたように顔を上げた。
ぐいっ、とヒルベウスがレティシアの肩を持って引き
二度と姿を見せるなと言われていたのに、怪我をさせるほどの迷惑をかけたのだから、激怒されて当然だ。
「二度と会わないというお約束でしたのに、申し訳ありません」
申し訳なさに、身を
が、すぐに腕を掴まれ、強く引かれる。たたらを踏んだところを、再び抱き締められた。
「逃げないでくれ。先ほどの謝罪で許してもらえぬのは当然だ。わたしはそれほど酷い仕打ちをしたのだからな」
「え……?」
ヒルベウスが何を言いたのかわからない。
首を
レティシアの髪に顔を埋めたヒルベウスが、苦い声を出した。
「……なぜ、わたしが婚約を破棄したか、理由を話してなかったな」
「は、はい……」
突然の話題の転換に、戸惑いながら頷く。
ヒルベウスの声は、今まで聞いたことがないほど、苦い。
「不貞を働かれたんだ。友人と我が家の別荘で。……君に会った日のことだ」
低い声に
「……わたしなりに大切にしていたつもりだったが、フルウィアはそうは思わなかったらしい。金しか取り柄のないつまらない男だと、浮気相手に
「そんな……なんて酷いことを」
ほとんど吐息だけで呟く。同時に、得心した。
なぜ、出会った日にヒルベウスが怒りも
隠れてタティウスと会ったレティシアにあれほど
レティシアはヒルベウスの心の傷を手酷く
本当なら、ヒルベウスはこんな告白など、決してしたくなかっただろう。
誇り高いヒルベウスは、無様な姿を他人に見せるのを、決してよしとしない。これほど辛い告白をさせてしまった自分が憎い。
顔を上げたヒルベウスが、レティシアの目を見つめる。
「タティウスと一緒にいたのを誤解した、愚かなわたしを許してほしい。君をあんなに傷つけたんだ。一度や二度、謝った程度で許してもらえるとは思っていない。何度でも――」
「待ってください! 許さないなんて……。謝らなければいけないのは私の方です。私が黙って勝手をしたせいで……」
慌てて答えながら、助けてもらった礼をまだ言っていないと気づく。
「助けていただいて、本当にありがとうございます。私こそ、ヒルベウス様に謝らなければ。お怪我をさせてしまうなんて……。お怒りも当然です」
「わたしを、許してくれるのか?」
ヒルベウスが呆然と呟く。
黒い瞳を見上げ、レティシアはきっぱりと頷いた。
「もちろんです。許さない理由がどこにあるのですか? その……ヒルベウス様の方が、怒ってらっしゃるのでは?」
先ほどヒルベウスが見せた怒りは、
怒る理由に心当たりがあり過ぎて、一体どれが原因かわからない。
ヒルベウスはなぜか気まずそうに視線を
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