第4話-6

 たぶん、彼は始めからそのつもりだったのだろうと、美紀はこの『入部届』を見て思ってしまった。その場の空気が読めないところが彼らしくもあるのだが。オカルト部って響きに、美紀はこの場に及んで拒否反応を起こしていた。


「なんだこの入部届?」


「そうだ。名前を書いて参加しろ」


「いや、ワケが判らないのは今に始まったことじゃないけど、さすがに空気読めよサングラス」


 もはや、彼が先輩だとか関係ない。


「判った。そこまで言うなら賭けをしよう」


 賭けだって? 美紀は、思いっきり嫌な顔をした。

 宗助がいう賭けとか、占いというのはできれば信じたくない。あたるのも確かなことなんだが。


「もしもだ。このオカルト部に入部した場合の人生と帰宅部として生きる人生、どっちが長生きできるか………そうだな、命ぐらい賭けていいかな?」


 てか、命を張るのはどうなんだ? それに………


「ねぇ? そもそもこのルール、人生は一度きりなんだから確認のしようがないよね? しかも、私が死んでからじゃ命の掛けようがないじゃない‼」


「………よく気づいたな⁉ 脳も犬並みかと思ったが、見当けんとう 違いのようだ」


「一応、幸助くんと同じ特進クラスなんだけど………偏差値は、それでも60はあるわよ」


 ちなみに、この東城高校特進クラスの最低偏差値は65で、彼女が合格したのはまぐれであるが。それでも、美紀は胸をった。胸、ないんだけどね。


「んじゃ、遠慮なく言わせてもらう。オメェの胸より衝撃的なことを言うかもしれない」


「人の思考を読むな………セクハラで訴えるぞ? それに、知れたことに衝撃もなにもない」 


 反射的に出たセクハラとはどっちの意味だろうか、美紀は理解できなかった。

 しかし、衝撃的という理由―――彼女が一度体験し、知れたことだとしても、その言葉自体が持つ強大な力に、美紀は圧倒し―――一言ひとことであらわすならば、冗談で済まされる問題ではなかった。


「今のまま高校生活を謳歌しようとすれば、かならずオメェの親友ユキと同じように、自身の霊感体質で殺されることになる。二日前のようにな」


 ユキと………同じように?

 言葉のあやというのか―――美紀はある点に疑問を抱いた。だが、そのことについて聞くことはない。正確にはできなかった。


 彼もまた、それ以上そのことには触れず、ふたりは恋人のように肩を組みながら、墓地を去っていった。


「ヤ、ヤメロよ。気色悪いにもほどがある!」


「大丈夫だべ。俺が、オメェを守ってンよ。卒業まではな………」



 真昼間の太陽が、この街を白と黒を判別させる。その中で、どちらの色にも染まらないふたりは帰路へと歩き始めた。お互いに、一種の安堵と不安を抱えながら―――


 宗助は、ただ機嫌のよいフリを貫いた。未だにこの事件の真相が明かされていないことを、美紀に話すことはできないままだった。そして、自身が抱える病を撃ち祓うことができるのは、彼女しかいないと確信していた。


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祓い屋 川越東城高校オカルト部~今日もこの街の自殺者を減らします! はやしばら @hayashibara

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