第117話 新しい住居

 電車12分、高速エスカレーター約5分、徒歩3分で指定された団地の指定された階、指定された部屋番号の扉にたどり着く。

 電車は仮想世界で乗っていた物とほぼ同じように見えた。

 大きさも扉も内装も。


 強いて言えばホームドアがどの駅にもついていた事位が違いだが、これも駅や路線によっては既に仮想世界でも使用していたし。

 後は駅間隔が比較的均等だったとか、高速エスカレーターのおかげか駅間隔が各停としては長めかなという事くらいだ。


 明らかに違うのは高速エスカレーターの乗り換え方式が横移動式な事だ。

 高速エスカレーターの横に乗り換え用の半分の速度のエスカレーターが平行していて、横移動で乗り換える形式になっている。


 これも事前にパンフレット等で知っていたから問題ない。

 エスカレーターを使用するのが困難な場合は自動操縦タイプの電気自動車を呼ぶ事が出来るようだ。


 和己は高速エスカレーターで移動しながら団地群を観察する。

 工場で大量生産した規格品ユニットを並べて組み立てた感じの無個性な団地。

 階数が6階までと低いのはおそらくこの工法で作る場合の強度の問題なのだろう。

 まあ確かにこれなら量産に向いているよなというような無個性な構造物が延々と並んでいる。


 和己は案内に書いてあった場所でエスカレーターを降り歩き出す。

 3分程歩くと和己の指定された3112号室。


 無個性さを少しでも和らげる為か、玄関扉の色だけが色見本帳のように少しずつ位相や彩度を変えてある。

 和己の部屋の扉は若草色。


 中へ入ると思ったよりも広い。

 ざっと回ったところ2LDK、80平米といったところか。

 1人用には少し広い感じだ。


 本来は夫婦用か子供が小さい時用の間取りだろう。

 1人者が全員このタイプの部屋なのか和己がかつて一軒家に居住していたことを考慮して広めの部屋を与えてくれたのか。

 その答えはわからない。


 そして洋服箪笥やクローゼット等には既にある程度の衣服が準備されていた。

 衣服だけでない。

 家電製品から日用品からひととおり既に用意されている。


 しかしノートパソコンの画面が通常より大きいとか料理用の鍋がコーティング済みの深さ違いの蓋付き小型フライパンばかりだとか。

 最初の洋服といい、微妙に和己個人の嗜好にあわせているように見えるのは気のせいだろうか。


 一応それらのリストはリビング上に他の説明資料等とともに置かれていた。

 そしてスマホ型の携帯電話と、どこかしら見覚えのあるタブレットパソコンもリビングのテーブル上に置かれていた。


 他にノートPCもあるのでタブレットは完全に和己の嗜好にあわせたのだろう。

 何となく起動してみると、既にメールボックスに1通メールが入っていた。


 送付元はシステムで、文面は1行のみ。

『ほんの少しだがクリアボーナスを追加した』

 やはり色々システムの手が入っていたようだ。

 奴にも茶目っ気とかそういう計算なり評価軸があるのだろうか。

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