第114話 出発
地上への移住とか社会人の勤務の激動とは全く無関係に学校の授業は続いている。
勿論授業の中に地上移住に先立つ知識の教育等も入ってきている。
むしろそのせいで授業が詰め込まれて若干厳しくなってすらいる。
まあ2年終了時点でほぼ高校での授業内容が終わっているので3年制の高校に比べればまだ楽なのだろうけれども。
教員も生徒も今のところそのままで、それ以上の変化は無い。
一方、学校以外の社会人は色々激動の日々らしい。
菜月の父親のように『今日は講習だ』、『今日は適性試験だ』、『今日は次の仕事に対する面接だ』と毎日が色々大変そうだ。
でも菜月の周り自体はあまり変化は無い。
相変わらず和己は飢えているしパン1個で簡単に買収できる。
ドーナツをおごる契約でドーナツ屋で勉強のわからない場所を聞いたりも出来る。
最高学年になって部活動が終わったので基本的に菜月の帰る時間も和己と同じ。
だから余計に変化が無いようにも感じる。
ある意味ずっと続いていくような、それでも構わないような穏やかな日々。
でもそんな1ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
5月31日、学校は休校になった。
◇◇◇
そして今日は6月3日。
昨日は和己の移住前というので菜月の家で壮行会に近い軽いパーティをした。
まあ春休みから6月2日まで、和己は夕食は毎日菜月の家で食べていたのだが。
ほぼいつも通りの会話だった。
違ったのは菜月の父が
「最後だし、まあ一杯」
とビールを注ごうとして菜月と母に怒られたくらいだろうか。
そして6月3日朝6時45分。
菜月がいるのは和己の家の前の路上。
そして手ぶらで軽装の和己。
外へこの世界から持って行ける物は基本的に無い。
記憶とか思い出とか知識いう無形物を除けば。
「じゃあ、またな」
「元気でね」
「ああ、そちらこそ」
そう言って和己は菜月に軽く頭を下げる。
それ以上はもう細かい話はしない。
しようと思えばいくらでも話せるけれど。
でもそうしたいならまた向こうで会えばいい。
会えると思えばきっと会える。
きっと。
「じゃあ先に行っている」
そう言って和己はもういちど軽く頭を下げ、回れ右をする。
そしてそのまま真っ直ぐ歩いて行く。
一度も振り返らない。
その姿が曲がり角を右折し消えるまで菜月はその場で見送った。
姿が見えなくなってもしばらくそのまま見送った。
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