第113話 夢の外に出る前夜(4)
「たださ、それでも会おうと思えば会える可能性は低くは無い」
ちょっとだけいつもの調子と違う声調で和己は続ける。
「向こうの団地の人口はわからないが、ここ仮想世界の相模大和市の人口は23万6千人だ。そのうち18歳の人口は2200人弱。
23万6千人分の特定の1人に会うのは難しいかもしれない。でも同じ18歳の1人に合うのならその100倍以上は会いやすいんだ。
更に男女が半数ずつなら相手を異性と決めると確率は倍になる。つまり普通の人の200倍は会いやすい筈なんだ。
だから会うだけならば、その気があればきっと会える。そう僕は思う」
菜月にもわかっている。
和己が言ったのは単純な数値のトリックだ。
いくつかの付帯条件が無いとそんな数値は通用しない。
でもその事に、その数値がおかしい事に和己が気づかない訳はない。
だから菜月には和己が言いたい事が伝わる。
ならば。
「じゃあもし、和己が誰かに会いたいとしたらどうするの」
菜月は一歩踏み出した内容を聞いてみる。
和己はちょっとだけわざとらしく考えて口を開いた。
「そうだな。もし僕が誰かと会いたいとすれば、そいつと思い出がある場所で待ってみるだろうな。
もし行った先が全く別の場所で思い出がある場所そのものが無ければ、思い出の場所と似た場所で待ってみると思う。
市民センターでは人もいるし待ちにくいから、待つとすれば公園だな。
出来れば城跡とか歴史系の資料館とかあればなおいいよな。資料館があれば冷房が効いた入口直近の場所だな。
夏は暑くて苦手だ」
和己はそう言って、今度は菜月に質問する。
「もし菜月だったらどういう場所で待つと思うんだ?」
もう菜月も和己が言いたい事がわかっている。
だから和己に確認して貰うようにゆっくりと答える。
「そうね。確かに公園だと待つのも楽そうだしね。私は割と暑いのは平気だけれど、誰かさんが暑いのは嫌いらしいから、冷房のそこそこ効いた歴史関係の施設の入口付近かな。資料室に入ると出られない可能性もあるらしいから」
和己は笑う。
多分きっと心からの笑顔だ。
「大変な資料館だな。出られなくなるなんて」
「そんな場所があったらしいわね。だから入口付近、出来れば案内より手前かな」
「そうだな」
確認のしるしに和己は頷いた。
そしてもちろん、菜月も。
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