第111話 夢の外に出る前夜(2)

 和己の世帯に来た書類は和己1人分だった。

 それが何を意味しているのかは和己本人も菜月にもわかっていた。


 だから菜月は話題を変える。


「でも生活はだいぶ便利にはなるようね」


 和己も頷く。

「超巨大団地だけれど、それなりに工夫はされているようだな」


 住所そのものは未定だが住む場所の概要等はイラストや図で説明されている。

 今度居住する場所は大規模マンションと言うのも申し訳無い位に超巨大規模の団地のようだった。

 1つの棟の長さが1キロ近い6階建てが約200棟、林立している。


 ただそんな巨大な建物だけに移動の面では色々考えられているようだ。

 まず長い長い建物内には移動用のエスカレーターが描かれている。

 また棟と棟を結ぶ高速エスカレーターや団地間を結ぶ電車に類するものも走っているらしい。

 ショッピングセンターも最大500メートルに1件程度はあるようだ。


「風情は無いかもしれないけれど、それを言うのは酷だよな」


 大規模プロジェクトで一斉にやる以上仕方ない面だろう。

 建築の効率もあるだろうし資源の面でもだ。

 それに人口が集積していた方が社会効率の面でも有利だ。

 当然和己もその事はわかっている。


「学校制度は残念ながらほぼこのままのようだな」

「生徒や先生はかわるだろうけれどね」


 全ての組織が脱出に際し一度公営化されるので、当然変更は色々あるだろう。

 それに社会人の場合は仕事内容が変わる事も多いようだ。

 一応希望を調査の上、能力診断も実施し、最適かつ現在以上の待遇の職務にあてるという事にはなっているようだが。


「うちのお父さんも色々考えているみたいよ。今考えてもどうにもならないし何とかなるわよ、ってお母さんは言っているけれど」

「大変だよな。社会の形もだいぶ変わるだろうしさ」


 確かにそうだな、と思ってふと自分の前にそびえ立っていた難題に気づく。


「でも大学受験はあるんだよね」

「ああ、そうらしいな」


 大学も大幅に整理統合されるらしい。

 でも大学そのものは存在して試験もやっぱりあるとの事だ。


「予備校が無くなったし、試験勉強は自分でしなければならない訳ね」

「そうだな」


 予備校や塾は一部補習用のものをのぞいて当分は全廃との事だ。

 ただそうなると試験勉強を自分でしなければならないわけだ。

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