第110話 夢の外に出る前夜(1)

 そして1月後の5月初日。


 いよいよ地上移住計画の詳細が発表になった。

 既に移住の予定地では住宅や必要インフラ等の整備も終わっているらしい。


 移動手続きにかんする詳細な内容やスケジュール。

 移住場所となる住宅の位置や外観や構造や間取り等の詳細。

 新規に作られた日本全土の地図。


 そういった情報が一気に氾濫した。

 同時にほぼ全ての世帯にそれぞれの地上移住の詳細が記された書類が届く。


 翌日の5月2日はちょうどGW後半突入の土曜日。

 予備校もGW中は現役生は休み。


 なので菜月はそれら書類のいくつかをコピーしディパックに入れる。

 出かけた先は徒歩5分以内。

 平たく言えば和己の家だ。


 インターホンを押して一言。

「入るよ」

 と声を掛ける。


 そのまま門扉を開け中に入り、更に12歩歩いて玄関へ。

 確認せずに玄関ドアのノブをひねって引く。

 予想通り開いていた。

 菜月は入って声を掛ける。


「おはよー!」

 中から返事らしき声が聞こえる。

 おそらく1階のリビングだろう。


 中へ入ると案の定、テーブルの上に和己が書類を広げていた。


「和己のところにも書類が来たんだね」

「所詮仮想空間だしさ、やろうと思えば同時にも届けられるんだろう」


「それで場所は?うちは相模大和市の何処かの区画だけれども」

「なら多分また近所かもしれないな」


 そう言って和己は書類を1枚、菜月に渡す。


「うん、相模大和市までは同じ。それ以降は発表されていないよね」

「そこからは実際に移動する際、という事らしいな。割り付け作業が遅れているという理由だそうだけれども、本当かどうかは不明だな」


「かなり苦情が行っているらしいけれど、受け付けてもらえないらしいね」

「企画側としては仮想生活の人間関係をリセットして新生活を送ってほしいようだな。多分こっちの仮想世界には社会維持の為にゲームで言うNPCがかなり含まれているんじゃないかな。

 まあ一応血縁関係の人間の居場所は向こうで教えてくれるらしい。僕には関係ないけれどさ」

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