第100話 私とあなたとボーナスステージ(4)

 あのシステムめ……。


 和己は1秒間に5回程度の早さで最後の部屋に居た顔に呪詛を唱える。

 真言系の強力な呪いとされる文言だ。


 ただし唱えているのが仮想空間内で対象がコンピュータ上の仮想人格。

 効果があるかは和己にも疑問だ。


「しかしこの後でご飯なのに、おにぎりなんて食べてて大丈夫なの」

「風呂で飲食は日本人のロマンなの!」


 確かに温泉でお盆におちょこでお酒、なんてのは漫画とかドラマとか話にもよくある。

 でもお盆代わりに寿司桶を使って牛乳各種瓶10本、おにぎり5個におつまみ各種というのは多分前例は無い。

 よく旅館もこんなオプションを用意した物だ。

 まあ仮想空間だから何でもありなのだろうけれど。


「なら試してみるかな」


 菜月はそう言って立ち上がり、手を伸ばしてフルーツ牛乳を取る。

 蓋を開けて薄いオレンジ色の瓶を口元に持ってきて立ったまま豪快に一気飲み。


「うーん、美味いけれどちょっと甘いかな」

 菜月はそう言って瓶をもどし、そして何か不自然な姿勢であさっての方を見ている和己に気づく。


「どうしたの、和己」

「何でもない」


 和己でも明言出来ない事柄はあるのだ。

 思い切り濡れて身体に張り付いた湯浴み着から身体のラインや胸のふくらみが丸わかりだとか。

 菜月は身長が結構高いので相対的に湯浴み着が短く足の付け根側が危ないとか。


 おかげで和己に身体上の不随意な変化があったがそれも当然言える事柄では無い。

 彼に出来るのは時が解決するのを待つ事だけだ。


「うーん、外が寒い中露天の温泉ってのも気持ちいいね。今度遙香や冬美も誘おうかな。こんな宿リアルじゃ相当お金ないと泊まれないしね。それに高校生だけで行く訳にもいかないし」


 菜月が両腕を思い切り上に伸ばして伸びをする等危険な行動をしながら、もっと危険な内容を口走る。


「あいつらはリゾートホテルとか冬のホテルスキーの方が好きじゃないかな」

 否定する理由をおおっぴらに出来ない和己は、そんな緩い否定しか出来ない。


「そうだね。せっかくだから出来る設定を色々楽しみたいしね。明日相談してみるね」


 えっ、あ、まあ、そうですか……

 和己の期待はことごとく裏切られそうだ。


 和己は効かないと思いつつも、システムへの呪詛をあと10回追加した。

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