第98話 私とあなたとボーナスステージ(2)
正確に言うと、気配では無く物音だ。
人が歩いているような音とか、扉を開けたような音とか。
いや、気のせいだ。
きっと気のせいだ。
多分気のせいだ気の迷いだ。
和己は思い直す。
ここはただの温泉宿では無い。
悪魔のゲームと呼ばれた入手困難なゲームの、難関をいくつも超えた先のゲームクリアの更に先の、エクストラモードの中の大規模娯楽室の仮想空間の中。
しかもここの仮想空間は確か起動する毎に新しく作成される筈だ。
だからここに他人が来る心配は無い。
強いて言えばシステム管理をしているコンピュータの仮想人格なら来る事は可能だろう。
でもそんな存在がこんな仮想世界の温泉を楽しむ意味はあるのだろうか。
しかし足音らしき音、つまり人の気配は確実に聞こえる。
和己の耳が間違いなければ間違いなく近づいている。
よし、避難しよう。
和己は牛乳とかおにぎりとかおつまみとかが入ったお盆代わりの桶を持ってじわりじわりと移動を開始する。
とりあえず露天風呂の一番奥の方へ移動するつもりだった。
本当は別に逃げる必要も無い。
違法な事をしている訳でもないことだし。
ただ話しかけられたりするのが面倒だ。
今は独りでのんびり温泉とつまみを堪能したい。
そういう訳で和己は広い風呂を出て建物に沿って入口から奥の方にある小さい湯船へと移動する。
ここからだと直接さっきの風呂からも入口からも岩などが邪魔で見えない。
ここからなら1人でのんびり出来るだろう。
そう思って桶を近くの岩の上に置いて、鶏の佃煮入りおにぎりを片手にもって口の中へ入れたその瞬間だった。
ぎぎぃ、ぎーっ。
どう聞いても具合が良くない引き戸を思い切りよく引いて開けたような音がかなり近くで響いた。
しかも和己が来た入口方向では無い。
何だ、何が起こっている。
何分おにぎりを口に入れた瞬間だったので全ての意味で対応が遅れた。
何とか口の中に入れてかみ切った分を飲み込む。
しかし和己がおにぎり相手に悪戦苦闘している間に、気配は容赦無く近づいてきた。
扉を閉める音。
足音。
そして和己が聞き覚えのある波長の鼻歌……
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