第96話 君と僕とで電車待ち

 またもや電車を逃してしまった。

 夕方は基本7分間隔なのだが、次は急行通過が入るので12分待ち。


「何かいつもこのパターンだな」

「だね」


 そう言いながらホームで電車を待つ。


「そう言えば最後のシステムへの質問、菜月らしくない質問だったな」


「まあそうかもね」

 さらっと菜月はそう言って流す。


「本当にあの質問、菜月自身が聞きたかった質問なのか?」

「黙秘権を行使しようかな」


「そうか」

 和己はそれだけをつぶやくように言う。


 背後のホームを地下鉄直通の急行が通過する。

 少しだけ涼しく感じる風が背後から通り抜ける。


「ゲームが進むにつて、少しずつある不安が蓄積してきてさ。

 思い通りに進めば進む程、不安は疑念になり、しばしば確信と見間違うようになる。

 僕はこのゲームを推理と観察で解いていて、これからも解き進もうとしている。

 でも本当は解いているんじゃなくて思い出しているんじゃないか。もしくは答えを知っている者として用意されたのではないか。


 そんな疑念が途中から抜けなくなってさ。

 正直なところ最後の扉を開くのが怖かった。

 向こう側にいるのは僕自身なんじゃないかって」


「結果はシステム本人だったけれどね」

「ああ」


 踏切の音が聞こえる。

 通過列車に注意との案内放送が流れる。


「もし最後の質問、向こうが別の答を言ったらどうだったんだ」


「仮定に答えるのに意味があるかな?和己だったらそう言うんじゃない?」

「厳しいな」


 菜月が少し笑みをうかべる。

「でもまあ答えてあげる。向こうがどんな答を言おうとも、私としては何も変わらないな。ああそういう事実もあったのか、そう思うだけで」


 和己は頷く。


「だろうな。菜月ならそう思うだろう。でもそれなら何故、そんな質問をしたんだ?」

「きっと誰かがその質問の答えを聞きたがっている、そんな気がしてね」


「その誰かって、誰なんだ?」

「そこから先は断固として黙秘権を行使します」


「そうか」


 急行電車が通り過ぎる。

 和己が何かをぼそっと言った。


 轟音で何を言ったかは菜月には聞こえない。

 菜月もあえてそれは聞き返さない。


でも和己の口の動きは通過する電車の窓に反射して、菜月の目に言葉として確かに伝わった。

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