第90話 パーティ4人と|規則破り屋《ルールブレイカー》(3)

「つまりは反乱に成功しても、それはあくまでゲームの中ではという事だ。

 更に言うと今現在ではゲームの中ですら反乱が成功する可能性は無くなっている。危険を確認したシステムが閾値を30パーセントまで上げたからな。


 この措置は実世界での2年9ヶ月前、こっちの時間では昨日の今頃に発効した。

 つまりはもう、諸君らの作業は無意味、そういう事だ」


「嘘だ!」


 その叫びは1人ではない。

だが和己は眉一つ動かさずに死刑宣告のように冷たく告げる。


「そう思うなら確認してみるがいい。そこからでもシステムに確認できる筈だ」


 ほぼ全員の手が今までと違う動きを始める。

 和己は手近なバリケードから椅子を取り出し、座った。


「そっちも座った方がいい。少し時間がかかるだろう」

 そう言うので菜月達もそれに従う。


 やがて明らかにバリケードの向こう側の雰囲気が変わっていった。

 呻き声や、慟哭まで聞こえる。

 どうやら和己の言った事の確認が取れたらしい。


 先程まで強気に見えた年かさの男がめっきり弱ったような声でこっちに語りかける。


「残念だがこっちも確認はとれた。そちらの言う事が正しいらしい。

 ただこんな細かい設定の変更、そっちはどうやって知ったんだ。それとも貴様はシステムそのものなのか。もし良ければ教えてくれ」


 言葉の終わりにため息が漏れたのも聞こえた。

 和己ももう先程までの挑発的な話し方ではなく、ごく無表情なある意味いつもの話し方で応じる。


「知ったのはただの偶然だ。午前中に第1通信室を確認した際、通信量が現実世界の2年前から大幅に減少しているのを確認した。特に大容量の非常用レーザー近距離通信の使用頻度の減少が顕著だった。だから念の為に理由を調べた。それだけだ」


「もしその切り札が無かったらどうするつもりだったんだ」

 和己は肩をすくめる。


「この規則破りルールブレイク作業すらゲーム上のものであるという事実を突きつけ、作業を中止させるつもりだった。それでもゲーム内の勝利を信じて抵抗を続けた際は、芸が無いがロボットと魔法で力押しするつもりだった。

 あんたらは運が悪かった。そういう意味では同情しないわけでも無い」


 相手が力なくではあるが笑った気配がした。


「いや、こちらの完全な負けだ。認めよう。

 しかしそうなると一つだけ疑問が残るが、聞いていいか」

 和己が頷く。


「そこまで知っていたなら今更俺達を止めるなければならない理由は無い筈だ。何故ここへ来て俺達を止めようと思ったんだ」


「これはゲームだ。だから手順に従ってみた。シナリオを書いた者に敬意を表してな」


 相手の男はもう一度、かすかに笑ったように菜月には見えた。

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