第70話 私とあなたと電車待ち(1)

 日差しが大分斜めになってきた。

 和己は残ったコーラを飲み干すとコテージに向けて歩き出す。


 案の定端末と画面が設置されていた。

 確認するとここからゲームを中断する事も出来るようだ。


 時間を見るともう午後5時過ぎ。

 名残惜しいがもう帰る時間だろう。


「もう午後5時だ。そろそろ今日は終わりにするぞ」

 和己はコテージから3人に呼びかける。


「えっ、もう?」

 そう言って菜月は急に慌て出す。


「どうしよう、ここからボートで海岸向かって更衣室通って帰ると午後7時近くなるよね」

「大丈夫、ここから直接帰れるらしい。勿論服も持ち物も着たときの状態に戻るようだ」


 明らかに菜月が安心した様子になる。


「うーん、でも何かちょっと名残惜しい」

「駄目よ。遙香は家がうるさいでしょ」

 遙香と冬美も立ち上がる。


「じゃあ容赦無く元の街に戻るぞ」

 和己はそう言って端末を操作する。


 ◇◇◇


 気がつくとエレベーターの中だった。

 すぐに扉が開く。


「しかし髪も乾いた状態とはね」

「仮想リゾートだからな、そんなものだろ」

 そんな事を喋りながら廊下を歩き、市民センターの外へ。


「じゃあ明日も9時ね」

「じゃあね」


 遙香や冬美と別れて和己と菜月は駅へ向かう。

 市民センターから駅まではすぐ。


 ただ駅に着いたらちょうど電車が行ったばかりだった。

 運悪く次は急行の通過があるので12分待ち。

 ホームで立っている時、ふと菜月は気になった事を和己に聞いてみる。


「和己、昨日か今日、何かあったの?」

「何で?」


 質問の形をした拒絶。

 でも菜月はめげない。


「今日の和己、少し変だよ」


 菜月はそう、言ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る