第69話 4人パーティと南国リゾート(5)

 サマーベッドでぼーっとしている和己に菜月が話しかける。


「こういうのもたまにはいいね」

「まあな」


 肉体的には結構疲れたが、それでも何か心地よさを和己は感じていた。


「でも、これも仮想世界なんだよね。きっと私達の街も学校も」

「僕らが現実だと感じていればその瞬間それは現実なんだ。それでいいと思うが」


「でもそれって結果としては嘘だよね。心地いい嘘」

 和己の言葉に冬美がそう感想を言う。


「嘘じゃないさ。世界を感じている瞬間においてそれは真実だと僕は思う」

「でももし今仮想世界を終了させたらきっと長期睡眠槽の中にいるんだよね、私達」


 冬美の言葉に和己は食い下がる。


「それも現実、ただ仮想世界の中での体験もきっと現実なんだ。僕はそう思うしそう信じている。今話しているのだってきっと現実だ。今仮想世界から目覚めたからと言って話した事、体験した事が嘘になるとは僕は思わない」


「強いのかな、それともそう信じたいのかな」

「どっちでもない。ただ僕はそう思う。それだけだ」


 しばらく波の音だけが響く。


「それでも夢はいつかは覚める。現実を見なければならない時が来る」

「それでも覚めるまで僕は夢を見る」


 歌うようにつぶやく冬美とそれに付け加える和己。


「まもなく夢が覚めるとわかっていても」

「ああ」


 冬美と和己の問答は続く。


「夢をみたままでいられればいいのにね」

「そうできないとわかっているからこそ貴重な時もある」


夢想家ロマンサーかな。それとも空想家ドリーマー?」

「僕はどっちの世界でも現実家リアリストだ、それ以外じゃ無い」


「なるほどね、それが和己の立ち位置なんだ」

「自分ではそうありたいと思っている」


 今度は遙香が口を開く。


「このゲームの設定、世界が一度住めなくなって私達は海底で夢を見ているって話。それを和己は信じてる?」


 ちょっと間をおいて和己が口を開く。


「設定そのものに信憑性があるのは認める。証拠を示せと言っても今以上の証拠を示す事は不可能だ。だからここは勿論、いつも住んでいる街だって通っている学校だって仮想世界かもしれない。その可能性は僕も認める。


 でもだからと言って仮想世界で僕らが体験した事、例えばこのゲームで色々探索したこと、考えたこと、そして今聞いた事話した事は嘘じゃ無い。

 そのとき思った事考えた事、聞いた話や感じた思いは嘘じゃ無い。


 僕はそう思う」

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