第50話 パーティ3人と客人とランチタイム(6)
秋良も遙香の視線に気づいたようだ。
和己との話題が一段落ついた処で遙香の方を見る。
「さて、私に何か質問ですか」
「あなたの本当の名前は何というの?」
冬美ですかと遙香は聞けなかった。
否定された時が怖くて。
秋良が冬美でない事を知る事が怖いのか、冬美に拒絶される事が怖いのか。
どちらかは遙香にもわからなかったが。
「私の名前は秋良です。少なくともここでは」
「じゃあ、冬美は元気?」
秋良は特に動揺した様子も無く、ただ軽く頷いた。
「元気ですよ。ただ彼女も迷っています。答を探してゲームの中をさまよっています」
「そのうち会えるかな」
「個人的な意見ですが、私は会えると思いますよ。お互い進んでいけば、きっと」
そのときの秋良の笑みが誰かの表情と重なった。
そして遙香はなんとなく納得する。
秋良はやはり遙香の知っている冬美だと。
何らかの理由で明らかには出来ないようだけれども。
秋良は食器類を片付けて軽く一礼する。
「さて、潮時でしょうか。私はそろそろ戻ろうかと思います」
「その前にひとつ聞いていいかな?」
菜月が尋ねる。
「何でしょうか?」
「上和田茂樹って名前の頑丈そうな高校生を知らないかな。うちの先輩でやっぱりこのゲームで行方不明になっているんだけれども」
秋良は首を横に振る。
「その方は存じ上げていませんね、残念ながら」
「そっか」
「それでは私はこれで失礼します。またお目にかかれると思いますけれど」
彼女はそう言って立ち上がり一礼して、次の瞬間姿を消した。
ふうっと遙香の口から息が漏れる。
「探していた冬美さんだった?」
遙香は菜月に頷く。
「多分。でもまだそう言えない理由があるみたいだ」
「良かったね。無事だし元気そうだし」
そうだ、冬美は無事だったんだ。
そう実感する遙香の目に自然に涙が浮かんでくる……
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