第42話 3人パーティと秘密基地(9)

「ここは何も面白いものはないな。森や林、海が映っているだけだ」


「じゃあ何故ここにいるんだ?」

 和己はそう言いながら画面や計器類を覗き込む。


「命令されたからさ。数値が黄色や赤に変化したら教えろって」

「あんたもそうじゃないのか?」


 和己は首を振る。


「僕はただのプレイヤーだ。命令とかは特に無いな」


「シェモースの仲間じゃ無いのか」

「何だそのシェモースというのは」


 待てよ、どこかで聞いた単語だなと和己は思う。

 少し考え、秋良と名乗った美少女の言葉に気づいてようやく和己は思い出した。


「そうか、出エジプト記か、旧約聖書の」

「何だそれは」


「シュモースというのは旧約聖書の1つ、出エジプト記の事だ。内容はユダヤ人がモーセに率いられてエジプトを脱出する話。またの名をエクソダスとも言う」


 少年だけでなく自分の後ろの2人にもわかるように和己は言う。


「要は本の名前って事?」


 菜月に和己は振り返らずに頷く。


「ああ。シュモースと出エジプト記とエクソダスは本来は同じ意味だ。まあエクソダスと言うと今は大脱出という意味の方が強いけどな。内容のユダヤ人大脱出が転じてそうなったんだ。だからまあ、脱出計画という程度の内容で引っかけて付けたんだろうけどな」


「何者だ、お前は」

「ただのプレイヤーにして読書とデータ処理が大好きな高校1年生だ。という事で、その画面は何が表示されているんだ?」


「見せないぞ、敵かもしれないからな」

 そう言って少年の1人が画面を隠す。


 和己はふん、と笑った。


「無駄な抵抗だな。どうせゲーム中は双方が合意しない限り戦闘にはならない。それに今までの会話で内容はだいたい掴めた。

 その隠した画面に出ているのは気温とか湿度とか、ひょっとしたら放射線量とか大気中の成分とか毒性有無とかそんなものだろう。あと海水温とか海水のpHもあるかもしれんな。


 緑色から黄色や赤色に変化するという事は、要は現在は緑色で、つまり人間が生活可能な環境だという言う事だな。

 あとは他の画面で判断出来る。葉の光沢が薄い広葉樹が多いという事は要は秋には落葉する広葉樹が多い、つまり現在日本の本州と同じくらいの気候だろうという事だ。


 つまりここに写っていたり表示されている事が示しているのは次の通り。この環境では人類は生活することが可能。そういう事だ」

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