第15話 実験屋と常識人

「なら魔法を使えば簡単に倒せたんじゃない?」

「それではチュートリアルの意味が無いだろう。敵がどんな性質でどんな攻撃をしてくるか。こちらから打撃を加えるとどうなるか。逆にこっちが被害を受けるとどうなるか。

 これら全てを調べるいい機会だ」


 菜月は半ばあきれかえりつつも納得する。

 和己はこういう奴なのだ。

 昔から。


「何か私よりよっぽど危ない真似しているじゃない」

「本当に危ない時に備えて比較的安全な時に試しておくんだ」


 いや単に和己あんたの性格のせいだよ、と菜月は返したいのを取り敢えずこらえる。

 この件では和己とわかり合えない。

 長年の経験で菜月はよく知っていた。


「それでこれからどうするの」

「行方不明になる条件は聞いたか?」


 菜月は頷く。


「自分の意思でゲームから出ない事でしょ」

「人の意思を操作する魔法があるらしい」


 その言葉の意味を理解するのに菜月は0.5秒ほど必要とした


「それじゃあ、上和田先輩や他に行方不明になった人は」

「その可能性も否定は出来ない、とチューターは言っていたな」

「それってこのゲームの欠陥じゃ無いの?」


 和己はため息をひとつついた。


「チューター曰く、システムの根幹近くを直さなきゃならんので是正が難しいんだと」

「それってシステム側がわざとそうしているって事、無い」

「色々決めつけるには情報が足りない」


 菜月の考えはあっさりリジェクトされた。

 でも菜月はめげない。


「という事は和己もこのゲームについて調べる気がある、って事なんだね」


 和己はまたため息をついた。


「誰かにのせられたような気がするのが気にくわないけどな」

「あんまりため息をつくと幸せが逃げるよ」

「迷信に興味は無い」


 その辺は疲れていても和己である。


「でもとりあえずは今日はここまでだな。もういい時間だ」


 そう言われて菜月は慌てて腕時計を見る。

 確かにそろそろ帰るべき時間だろう。


「詳細はまた明日だな。勝手にゲームを進めるなよ」

「わかった。じゃあね」


 菜月は立ち上がってディパックを肩にかけた。

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