第11話 前の住民と裏の住民
充電していたタブレットはほぼ満充電状態になっていた。
「少し設定を変える。携帯を貸してくれ」
「いいけど、何で」
そう言いつつ菜月は警戒せずに和己に自分のiPhoneを渡す。
「このタブレットは今は僕の携帯のWi-Fiを拾ってネットに繋がっている。だからもし僕の携帯と距離が離れたらネットに接続できなくなる。それで事故が起こってはまずいから、菜月の携帯からネットに繋がるように設定を変える」
和己はそう言って菜月にはわからない項目を色々設定して、ついでにタブレットの方も設定して両方を菜月に渡す。
「これで設定は完了だ。マイクも機能するよう戻した。じゃあ出るか」
「何処へ?」
菜月が尋ねる。
「今度は時間がかかると言われたろ。時間がかかりすぎて下校時刻を過ぎたらまずい」
「そういえばそうね。じゃあ……お店とか人がいるところも駄目だし、うちの家か和己の家か。和己の家ってまだ両親ともいないんだよね?」
「ああ。再来年の4月までは戻ってこない」
和己の父は海外派遣中で、母も一緒について行っている。
「なら和己の家ね」
「残念ながらそれが最適解だろうな」
仕方なさそうに和己が頷いた。
◇◇◇
和己の家は学校の最寄り駅から3駅先で降りて5分程歩いたところにある。
ちなみに菜月の家はそこから徒歩3分だが、実は家の裏側で敷地が隣り合っている。
同じブロックの裏側と表側という関係だ。
それ以外にもまあ色々あって、つまりは菜月にとっては勝手知ったる他人の家。
なので和己が鍵を開けるとともに遠慮無く中へと入る。
「相変わらずきれいにしているよね。実質1人暮らしなのに」
「最低限の掃除だけだけどな」
「もう少しくらい散らかしても生活感あると思うんだけどな」
菜月はそんな事を言いつつ勝手に歩いて、リビングのソファーにディパックを下ろす。
「さて、さっさと始めましょ。あまり遅くなったらいいわけが面倒だし」
「そうだな」
2人はタブレットを取り出す。
「何度も言うけれど、危ないと思ったらすぐ逃げろよ。あと第3チュートリアル開始後、最初にこっちに戻れる処から戻ってくる、いいな」
「はいはい」
菜月はいい加減な返事をしながらタブレットの電源を入れ、ゲームを起動した。
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