第8話 プレイヤー1とチューター

「まあいいか。僕はこのゲーム『Novus ordo seclorum』のチューターさ」


 菜月はその男に尋ねる。


「チューターって何?」

「要は初心者用の解説者だ。ゲームの説明役と言った方がいいのか」  

「じゃあ上和田先輩が行方不明になったのはこのゲームのせいか、教えてくれる?」

「その答えは僕には用意されていない」


 自称チューターは和己そっくりに肩をすくめてみせる。


「僕が出来るのはこのゲームの説明だけだ」

「じゃあ元の部室に戻る方法は?」

「第2チュートリアルが終われば戻れる。つまり一通り説明を聞け、って事だな」


 微妙に偉そうな言い方まで和己そっくりだと菜月は思う。


「じゃあさっさと始めて」

「そうしよう。まずはゲームの目的からだ」


 チューターの台詞とともに周りの世界が一変する。

 いかにも教室然としたホワイトボードと教卓が現れ、チューターはその前に立った。

 もう装う必要はないという事らしい。


「このゲームの目的は簡単。この世界の謎を解き明かす事だ」

「謎って何なのよ」

「わからないから謎なんだ」


 余裕っぽく笑う表情も和己そっくりだ。

 菜月以外には単なる無表情にしか見えないのだろうが。


「まずはこのゲームがインストールされた端末を持って現実世界を歩く。するとこのゲームが反応する場所がある。そこでゲームを起動すれば何らかのイベントが発生してゲームが進む。これがこのゲームの序盤の進め方だ」

「それだけ。ならひたすら歩いてゲームを起動しまくればいいじゃない」


 またまた和己そっくりに笑われる。


「何処にあるかわからないのにむやみに歩き回るのかい? 

 それにイベントクリアにはそれなりの障害がある。基本的には探索か謎解きだな。

 まあその辺は第3チュートリアルで説明する。

 僕のやることは今言ったゲームの目的と、あとはプレイヤーの初期設定だ」


「初期設定?」


 チューターは頷く。


「そう。このゲームは戦闘もある。ただこのゲームでは初期設定にプレイヤーが選択できる余地は無いよ。プレイヤーの資質を元に自動決定する。

 まあ君の場合は簡単だ。運動部系の高校生で武器は両手剣。身体系統フィジカル数値パラメーターもかなり高い。割と力押しでも何とかなるタイプだな」


 褒めているようだが要は脳筋だと言われているような気がする。

その辺が本当に和己そっくりで腹が立つ奴だ。

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