第7話 プレイヤー1と観察者

「やめとけ、危ないぞ」

「そこで和己が見ているなら大丈夫でしょ」


 そう言って菜月は画面を見る。

 警告のウィンドウは消えていた。


「この状態なら大丈夫みたいね」

「危険だと思ったらすぐ逃げろよ」


 取り合いをしても無駄だと和己は悟ったらしい。

 少なくとも会ってから本日までの10年以上の間、菜月と身体的フィジカル勝負ファイトで勝った事は無いのだ。


「この林檎が画面の外に出るように念じればいいのね」


 和己は何もコメントしない。

 菜月は画面上の林檎を睨む。


 出ろ、出ろ、出ろ……

 当然の事ながら画面上の林檎はぴくりとも動かない。


「そうか、出ろ!じゃ駄目か」


 菜月は今度は林檎が動くように念じる。

 林檎が右へすっと動くイメージ。


 確かに林檎が右へ少し動いたような気がした。

 よし、もう少し、もう少し右へ……


 ふっと世界が瞬いたような気がした。

 見ると画面上ににあった林檎が無くなっている。


 画面の右横へ視線をずらす。

 和己が赤い林檎を持っていた。


「おめでとう。第1チュートリアルは終了だ」


 違う!

 すっと菜月は左足を引く。

 いつでも動ける体勢になる。


「あなたは誰!」


 菜月にはわかる。

 今目の前にいるのは和己じゃない。

 見た目は寸分違わずそっくりだし声色も同じ。

 それでも違うのはわかる。


 彼はふっと笑顔を見せた。


「第2チュートリアル担当の僕はプレイヤーが一番心を許せる姿で具現する。しかし一瞬で違いがわかるとはな」

「悪いけど和己は小さい頃から、それこそ趣味も好きな音楽も、おしりのほくろから毛が生えた年月日まで知っているの」


「それ言ったら本人が嫌な顔をしないかい」

 和己に似た彼は苦笑する。

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