PART 10 - 決意

 逃走者とヴァグランの追跡は容易だった。

 如才ない傭兵の頭は、道行きに目印となる蛍石ほたるいしをいちいち落としていた。

 ギブンとヴァグランの手下たちは、それを辿るだけでよかった。

 そして、それが途切れる地点。


「そ、そんな、頭ァ……」


 手下のひとりが、呆然と呟く。

 異様な斬り口で倒された木々の合間に、力なく横たわるヴァグランの体があった。

 左脚を脛から断たれ、首と胴が分かたれた、凄惨な姿である。

 蒼い瞳が見開かれたまま、力を失っている。


「まだ温けぇ」


 年嵩の部下が、ヴァグランの瞳を閉じてやりながら、言う。


「野郎、遠くには行ってねえぜ」

「……おぉ、こうしちゃいられねえ」


 その言葉に、呆けていた手下たちも、ふたたび血気を逸らせ始める。


「頭の弔いだ……!」

「野郎、八つ裂きにしても足りねぇ!!」

「“黒鉄”の団の力の見せ所よォ!!」


 応、と気勢を上げる男たちを、しかし、止める声があった。


「待て!!」


 ギブンである。


「追うな」


 すでに殺気を漂わせ始めている男たちの眼を真っ向から受け止めながら、言う。


みなごろしになるぞ」

「ふざけんじゃねぇッ!! 頭をこんな惨い姿にさせられて、おめおめ引き下がれってのか!?」

「蜘蛛の巣だ」

「ああん!?」

「おまえたちの中で、蜘蛛の巣に一度も触れずに森の中を走り抜けられる者はいるか」

「なんの話だてめえェ!?」


 ギブンに食ってかかる手下を、年嵩のひとりが押し留める。


「いねえよ、旦那」


 ギブンはひとつ頷く。ヴァグランの亡骸を指す。


「触れればこうなる」


 激昂していたヴァグランの手下たちの顔が、さっと色を失くすのがわかった。

 ヴァグランの遺体の状況、周囲の破壊の痕跡から、ギブンは犯人像が最悪の想定通りか、それを上回ることを察する。

 森の中はの狩場である。

 ただの山林を、ヴァグランの魔眼で以ってしても見抜けなかった、不可視の刃が数限りなく張り巡らされた死の領域へと化さしめた。


「……このままでは済まさん」


 その闇を見据えながら、ギブンは自らに言い聞かせるように呻いた。


「必ずこの手で捕らえる……!」

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