第1章2 愁い想う道すがら
――――――フェル・クアルドからアルタクルエに向かう道中。
「シュハク様、どうしました? 何か気になる事でも?」
馬車の中――――――考え事をしている素振りが表に出ていたらしく、同乗するチームメイトに心配させてしまった事を、シュハクは恥じる。
「ああ、いや……今大会は、他の国々はどんなチームを送り込んでくるのかな、と考えてただけだよ。国によって代表チームの組み方、選手の選び方、方針などは違うから、前回大会と同じ選手が来る可能性は低いだろうからね」
「あー、そうですね。調べた限りじゃあ、たいていは1回出場した選手は、次の大会にゃ出てこない国が多いみたいだし。ウチが特殊っちゃあ特殊かもですが」
大会規定上、選手は20歳以下でなければいけない。なので20歳以下でもっとも能力や成長著しい世代として、どの国も基本は16~18歳頃の若者を選手として選ぶ傾向が強い。
だが、フェル・クアルドではそれよりさらにもう少し若い14歳~18歳の中から選抜している。シュハクは前回大会の時は14歳とまだ若かったが、戦技の才を発揮してチームを率い、優勝まで導いた。
そして現在16歳。前回に引き続き、再びリーダーとしてチームを率いてアルタクルエ国際戦技大会へと乗り込む。
だが、彼の本当の憂いの理由は別にあった。
「(今度こそ……何か手がかりを得られるだろうか?)」
痩せ細り、日頃から元気の足りない両親。
子供達の前では気丈に振る舞って笑顔を見せてくれる王と王妃は、もうどれだけの夜、悲しみに暮れていることだろう。
――――――シュハクがその事を知ったのは物心ついてすぐの頃だった。
幼心にも過保護すぎるとわかるくらい、護衛や側仕えを張り付かせる父親は、明らかに他の大人と比べても、心労がたたった痩せ方をしていた。
自分が過保護に育てられる理由、心配させまいと笑顔の向こうに隠された両親の衰弱気味な雰囲気の理由。
家族想いで優しい性格のシュハクが、その答えを求めるのは当然だった。
そして6歳の時。
その答えを知っていた剣術指南の老兵が、他の兵士との会話の中で一言―――
『 剣の才があらせられるシュハク様に、あのような不幸が起こる心配はなかろう 』
―――それをたまたま聞いたシュハクは老兵に問い詰め、観念させてすべてを聞き出した。
自分には、何者かによってさらわれた行方不明の兄がいる……と。
なかなか子宝に恵まれなかった夫婦の最初の子供。それはそれは喜んだはずだ。
ところがそれが失われてしまった……そのショックがどれほどのものだったか、まだ6歳だったシュハクにはとても想像しきれない。
しかし両親はそれを必死に隠す。シュハクに心配させまい、気をつかわせまいとして。
それまで子宝に恵まれなかったのがウソのように、翌年には
だからといって、それで行方不明の第一子を忘れられるものじゃないし、忘れてはならない。
年齢をかさねて成長していくたび、聡しい子だったシュハクは両親の心の苦しみへの理解を深めていった。
そして自分も行方不明の兄上を探そうと、幾度も決意しては踏みとどまる。
自分に何かあった時、両親はそれこそ悲しみに落ち伏してしまうから。
10歳になるまでは、それこそ子供の思い立った勢いで兄を探す旅に出る! なんて事を何度も考えたことがある。しかしひとえに家族を悲しませたくないという気持ちと、王子という身分がその思いつきの行動をとどまらせた。
もちろん父は、兵士達を使って兄の行方を探させ続けている。友好ある国にも捜索をお願いしている―――けれど、いまだ手がかりは何もない。
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「(アルタクルエ国際戦技大会には各国の王をはじめ、観客のほとんどが貴賓か選手の関係者、あるいは応援団などだ。今度こそ、何か情報を得たい……)」
シュハクは王子だ。そこに加えて今回は、前回大会優勝という箔もついている。各国からやってきた貴賓との接触や会話は容易いだろう。
国家の大事に関わっている者なら、その国での情報を色々と持っているはずである。シュハク自身が出来る、数少ない兄探しのための行動は
―――もどかしい。
危険を覚悟して国を飛び出し、直接兄を探しにいけないことがこの上なくもどかしい。
「(でも、探すにしたって情報が少なすぎる。
自分の兄は一体どんな人なんだろう? 無事でいるのだろうか?
シュハクは優秀ゆえに悩むことが少ない。生れてから今まで、彼が悩むのは常に、行方不明の兄についての事のみだった。
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