大会の序曲
第3章1 多様な出場者達
2年に1度各国より代表チームが集い、その戦闘技術を競うアルタクルエ神聖公国の国際戦技大会。
そこに出場する選手を決める方法は、国ごとに異なっている。
ここルクシャード皇国では学園に通う生徒から代表選手を選出していた。
その理由は、選手の条件が20歳以下である事と、各国の選手同士の試合という事もあって、多少なりとも大会での成績に国の威信がかかってくる為だ。
20歳以下で、戦技がもっとも高く望める年頃であり、かつ貴族など身分の高い家柄の生徒が多いこの学園はその条件に合致する。
……最も、ルクシャード皇国における貴族達が下々の者より国家代表を選出するなど恥であるとして、国内より広く選手を募る事を反発してきたのが本当の理由であり、そのせいで実力で他国選手に劣る者が選ばれる事も多く、大会におけるルクシャード皇国の過去の成績は芳しくなく、上位に食い込む事は稀であった。
―――――――いつもの庭。
「ちなみに前回……2年前のルクシャード皇国代表チームの成績は、全20チーム中8位で、一応は過去最高の成績だったらしい」
「へー、だいぶ頑張ってんな。2年前…ってことはもう卒業してる先輩方の時代か」
「ああ、特に代表選手を3年次生徒で固めなきゃならないという事もないんだが、その年は珍しく選出された選手が全員、3年次生だったらしい。実力も過去最高だったと言われてるみたいだな」
「まぁ
「それはウチらのチームやと学内で勝ち残るんは無理、って事ですん?」
スィルカなら、はじめから勝つ気がなくてどーするのかなどと言ってきそうだったが意外にも落ち着いている。さすがにノヴィンやミュースィルを抱えているチーム構成で優勝を目指すのは無理だとわかっているのだろう。
「いやそういう事じゃない。学園内での選抜戦技大会だが、これが少し特殊らしい」
「特殊…ですか。何か変わったルールでもあるなどでしょうか?」
ミュースィルの問いにシオウは軽く頷いて見せた。
「まず、学園内で勝ち残ったチームが、そのままアルタクルエの国際大会に出る代表チームになる、というわけじゃないようだ」
「え、そうなのか?? それじゃ選抜大会で優勝する意味はないって事か??」
「半分はな。だが優勝を目指す意味がまるでないわけじゃない。というのも、国際大会に出る代表チームの選手を選出する権利が、優勝チームのリーダーに与えられる、ってことになってるんだ、このルクシャード皇国ではな」
考えてみればかなり特殊でややこしい話だ。当然、リッド達4人の表情には困惑の色が浮かび上がる。
「?? え、えーとそれはつまり…僕たちがもし優勝したら、リッド先輩が国際大会に出る選手を選ぶことができるようになる、って事ですか?」
「ノヴィン正解。ルクシャード皇国の代表は過去に手ひどい負けが続いた時期があって、さすがにもう少し本腰を入れたチームを送り出すべきだという声が挙がったらしい。で、3回くらい前の大会―――だいたい6年ほど前ぐらいから、学園の優勝チームをそのまま代表にするのではなく、この方式に変えたそうだ」
だがその話を聞いて、4人はますます腑に落ちないといった風にシオウを見た。
「意味あるのかそれ?? 学園の選抜で優勝したチームが一番強いチームなわけだろう? それにチームのメンツは、自分が別の奴に変えられたら不満に思うんじゃないか??」
「そやねぇ、別の選手と入れ替えてチーム作ってしもうたら、チームワークとかもどうなるんです? まとまらんかったらチームの意味もないんと違いますの?」
リッドとスィルカの疑問は、ノヴィンとミュースィルも感じていた事らしく二人も同意するように頷いた。
「そうとも限らないらしい。まず実際の試合は1対1で行うからな。1度に複数人同士でやり合うならともかく、チームといっても試合そのものにはチームワークはさほど必要ない。そして敗北したチームでも、例えば突出した実力を持つ選手がいた場合とか…」
「あ! …そういう理由もあるんですね。個人としてより有望な選手が他チームにいらっしゃれば、その方を代表選手に選んだ方が良いかもしれないと」
ミュースィルの表情が納得ですと和らいだ。
「逆にいえば、ウチのチームがそのまま国の代表チームになろうとするなら、まず学園内で優勝して、リッドがこの4人を代表チームの選手に選んでくれるとかでもない限り、まず無理だって事でもある」
「おう、その時はみんな連れていってやるさ! んじゃとにもかくにもまずは、選抜大会で勝たないとだなっ」
シオウがその時は面倒だから俺は勘弁なとつぶやいていたが、当然の如くリッドはそれをスルーした。
――――――同時刻。自修棟1階、戦技修練場。
「…よし、そこまでだ。学園内戦技選抜大会の我がチームメンツを発表する」
鋭い眼光のガントの前に、それまで打ち合っていた他の男子生徒達が一斉に集まってくる。
いずれも貴族や金持ちの家の子息ばかりだが、多くの生徒の中でもガントが比較的
「まず…クラウノ。先鋒だ」
「よっしゃあ!」
「次鋒……ヘスター」
「お、俺?! やったラッキー!!」
「ヴェッダ。中堅」
「先輩にはせめて “ さん ” くらいつけてくれよガント。ったく、選んでくれたのはありがたいが、もう少し年上を
「副将は…ジクーデン。貴様に任す」
「了解さんだ、よろしくな大将」
「大将はこの我…ガントがつとめ、これでチーム・ガントの結成とする。選ばれなかった者達は好きに組むがいい。無論、当日我のチームと当たったとて互いに手加減は厳禁だ、全力で来い。この場にいるお前達は皆、この学園内において特に優れた者ばかりであると期待する…当日はしかとその実力を示せ、以上だ」
「「「「 オォ!! 」」」」
戦技というカテゴリーにおいて、現在の学園でガントほど信頼を寄せられている生徒はいない。彼がいかに大会に対して真剣であるかを、戦技に熱心な学生ならば誰もが知っている。
そして、その目も確かである。
彼自身の強さはもとより選出される他の選手もまた、この学園では最高峰の者ばかりになる事は確実であり、選ばれれば学園最強チームの一員となれるチャンスであった。
だからこそ彼らはこぞって、ガントのチームメンバーを決めるこの模擬戦に参加した。
仮にガントのチームに選ばれなかったとしても、比較的強い連中が集まっている。漏れた者同士この場でチームアップを行えば、レベルも意欲も高いチームを結成しやすいという利点もあった。
「(……こんなものなのか。情けない、実に)」
しかし彼らの考えとは裏腹に、当のガントは心中落胆していた。普段自分にくっついてくる取り巻きどもはもちろん論外。しかし今回募った
ガントは知っている。本番であるアルタクルエ神聖公国での国際戦技大会のレベルのほどを。
2年前、それはまだ学園に入る前の事だ。兄が代表チームの一員として戦った試合を、彼はその目で直に見ていた、そして兄の無念も……。
兄のチームが成しえなかった優勝を、ガントは本気で目指している。
だがあくまでもチームで出場する大会。ガントが一人、いくら強くなったところで学園内ではともかく、本番大会で優勝できるというものではない。
強いチームメイトの存在は不可欠。
だが……今回選んだ、いや
「(とにかく、まずは選抜で優勝。さすれば選手の選定権を得る事ができる。後は……見どころある者が他のチームにいてくれる事を願うより他なし、か)」
――――――同時刻。学園寮、クルエ=ヘヴァンダンの部屋。
「では先鋒から副将までを、私を抜いた4名で誰がどのポジションをつとめるかをお決めなさい」
そう言うとエステランタは自分だけお茶のカップを手に取り、優雅なティータイムへと突入する。
「
「もちろん! 私は大将としてドーンと構えましてよ。おーっほっほっほ!」
部屋の主クルエ=ヘヴァンダンとその友人アン=タグドレーは顔を見合わせ、少し疲れたような微笑含みの表情をともに浮かべあった。
この二人は以前、ミュースィルの取り巻きであったが、エステランタの入学と同時に彼女へと乗り換え、今ではすっかり彼女の専属取り巻きとなっている。
貴族の令嬢が学園にて他の学生の取り巻きになる理由。
それは相手との密接な関係の構築である。ミュースィルは皇帝の娘であり最も高貴な姫ではあったが、どんなに尽くしてもまったく縁故を結べそうな気配がない。逆にエステランタは自分の取り巻きを大事にし、家同士の繋がり構築にも期待が持てる相手だった。
いかに大物であっても靡いてくれない相手よりは、多少グレードの劣る獲物でもありつける方に近づいて実入りを確実にするのは当然の選択だ。
ところがエステランタはエステランタでなんとも面倒な性格ゆえに、ついていくのが大変で、二人は辟易とさせられる事も多く気苦労が絶えなかった。
チーム・エステランタは、エステランタをリーダーに、クルエ、アン、エイリー、そして――――
「…あ、あたしはあんまり…その、戦いとか得意じゃないんですがー」
どう見ても戦技から程遠そうな文学少女の ウリン=フェブラー の5人で構成されていた。
「うーん……ではエイリーさんに先鋒をお願いして次鋒にウリンさんを置き、中堅は私、そして副将をアンがつとめるのではいかがでしょう?」
「わ、私が先鋒ですか??! ……で、できるかな」
「大丈夫、誰がなったってそんなに変わらないでしょうし。私だって副将なんてつとまる気がいたしませんもの」
それでも引き受けるのはこの中ではクルエが一番、こういう判断に長けている事を、一番付き合いの長い
実際、振り返って考えてみるとそう悪くはない。
学園選抜大会のルールでは勝ち抜きができる。そして勝ち数の多いチームが勝利となり、次に進む事ができる。
なので前に強いメンバーを置いてなるべく勝ってもらえば、後が負けてもチームとしては次に進める可能性も高くなる。
エイリーはこの中では一番体力があるし、戦力としてはもっとも頼りにできそうで、先鋒にもってこいだろう。事実、入学から短い期間なれど戦技の成績は良さそうである。
一方でウリンは一番ダメだった。戦技面での期待がまったく出来ない。なので次鋒においておく。
まずエイリーで勝って、負けるにしてもウリンで敵の消耗をはかり、次に繋ぐようにするのがベスト。
そして中堅にクルエ。判断力のある彼女は、それまでの試合運びを踏まえて上手く立ち回れることだろう。
そして副将の
だが、そこまで考えて彼女は、気になる事を自分達の大将殿に問いかけた。
「あのー、エステランタ様? ミュースィル姫様と試合をなさりたいという事ですけど」
「ええ、最大の目標でしてよっ」
「…大将の位置でよろしいんですか? もしミュースィル姫様のチームと当たったとしても彼女が先鋒とかですと、大将のエステランタ様まであちらが勝ち残る事なく終わるという可能性もあると思うのですが…」
「………」
意気揚々と上機嫌だった彼女の動きが止まる。お茶を啜っていたその手からティーカップが心地よい音と共に床へと落下し、綺麗に砕け散った。
――――――同時刻。戦技用第一グラウンド。
「やはり一番の強敵はガントのチームか?」
やや背が高めの金髪碧眼の男子が、アゴに手を当てながら真剣に提する。
「チーム以上に、ガント自身が厄介な相手だからな…他はさほどのチームはなさそうだが…」
中肉中背の茶髪男子が、手に持った紙の束をめくっては都度書かれている文字を注視する。それはコネで先生の一部から貰った、全チームの出場届け出書類の写しだった。
「なんてことはないさ。ガントだろーとなんだろーと、この俺様の
小太りな男子は言いながら、自信たっぷりに笑みを浮かべた。
「おーい、ブリアンー、準備できたぞー」
遠目に二人の男子が声をかけてくる。その二人の間には、人間の背丈ほどの太い丸太が縦に直立で置かれていた。
「よし、それじゃあいくぜぇぇ……、せりゃあ!!」
カッ!!
精神を集中するかのように閉じた目をすぐに見開く。
それと同時に小太り男子はドタドタと走り出し、自分よりもなお太い丸太の表面に、右手を開いたまま打ち付け、丸太を掴むかのように拳を閉じた。途端――――
……ガバキャァッ!!!
「すげえ、あんな太い丸太を握り砕いた!?」
「さっすがブリアン。これなら優勝は貰ったも同然だな」
「当たり前だとも。この
――――――同時刻。教師事務室。
「へぇ、これが今回の出場チーム一覧ですか。ひーふーみー……17チームとは、なかなか豊富ですねフラッドリィ先生?」
「ええまぁ。8チーム程度に絞るために予選を設けないとならんので、あんまり多いと面倒なんでがね、正直」
余計な仕事が増えると、ため息をついてみせるフラッドリィ。同僚の男性教師は、ハハっと気楽な笑いを漏らした。
「3年次から1年次まで、全校生徒の自主性に任せた任意参加ですし。それだけ今年は意欲ある生徒が多いという事でしょう、それはそれで良い事なのでは?」
「そうかもしれませんけどね、国命での仕事も同然なんでしんどいんですよ。ここから国の代表が出される事になるわけだから、責任感からのプレッシャーってもんがね。……代わってくれるってぇなら、もう喜んでお願いしたいくらいなんですがぁねぇ?」
「あ、あははは! それじゃあフラッドリィ先生、頑張ってくださいっ、じゃっお先に!」
同僚はさっさと逃げ出してしまう。
面倒な仕事など誰でもしたくない事などわかっているが、いざ自分に回ってくると誰かに押し付けたくなるものだ。
フラッドリィは再度ため息をついてから、出場チーム一覧に目を通した。
「―――――ん? “ チーム・リッド ” …ほほう、珍しいこともあるものだ、あの万年やる気なしが、どういう風の吹き回しだ?」
思わずニヤリとしながら、別途チームオーダーの届け出の紙を探す。
「あったあった、“ チーム・リッド ” これだ。リーダーはリッド=ヨデックで先鋒もリッド=ヨデック、次鋒はノヴィン=コラットン、中堅はスィルカ=エム=ルクシャードに……ほう、シオウの奴は副将か。そして大将にミュースィル=シン=ルクシャードと。はっはっは、よくもまぁ皇家のお姫さん方を巻き込んだもんだ」
面白いものを見つけた子供のように上機嫌になるフラッドリィ。面倒だった仕事が少し楽しみになってきて、つい片手で机上の端を叩く。
…と、その衝撃で積んであった紙束から、ひらりと1枚用紙が落ちた。
「おっと、いかんいかん。落とし――――……。何? この生徒は…」
個別に出場選手の詳細を記した用紙。
そこに書かれていたのは、チーム・リッドでもチーム・ガントでも、チーム・エステランタでもない別のチームのメンバー情報。その項目の一つに、フラッドリィの目は釘付けになった。
「………
一人で盛り上がってるフラッドリィ。同僚たちが彼を遠巻きにどこか危ないものを見るような目でヒソヒソ話をしているのに、彼が気づく事はなかった。
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