第2章5 選抜に向けて


――――――いつもの庭。


「と、いうわけで頼むぜ御三方!」

 元気よくのたまうリッド。その横で申し訳なさそうに委縮しているノヴィン。一通り話を聞いて、三者三様の反応を示す3人。


「まぁ。私は戦技の成績はあまり自信がないのですけれど」

 ミュースィルは一番反応が弱い。イベントごとは楽しそうだけれど内容が自分の不得意分野なだけに、そんな自分がチームの一員で良いのだろうかという不安がやや勝っている様だ。


「なに当然のように話進めてはるんですっ?! しかも勝手にウチとミュー姉様までチームに数えるなんて…本人に了承取ってからにしてください、そーゆーんはっ!」

 きちんと要請して イエス か ノー を聞いてからだと、スィルカは憤る。ルール違反や無視を嫌う彼女は、やはりというか一番感情を荒げた。


 そして…

「………。リッド、お前……」

 心底呆れている友人。寝っ転がったまま、俺は知らんとばかりに読んでた本で自分の顔を隠した。だがそれはすぐに摘まみ上げられてしまう。


「頼むよシオウ。カワイイ後輩のためだと思ってさ」

「1週間、アイツを見たんだろう。それを踏まえてか?」

 ニヤリとして、寝っ転がっているシオウに耳打ちせんとリッドは顔を近づける。

 ノヴィンに聞こえないようにするのは、気遣われていると知れば彼がまた恐縮するだろうと思っての配慮だ。


「ああ、本人も半ば諦めかけてる。けどこうズルズルといくのは良くないだろ? 勝っても負けてもいいからさ、ちょちょっと参加して、パパッと戦って、あーやっぱダメだったねー、ってな感じになればさ」


「………まったく。それならそれで決める前に話くれ。……届出、もうだしてきたんだろ、勝手に?」

「へへ、よくお分かりで、さっすが。…お前が参加すりゃ、お姫さんも付いてくるだろ? お姫さんが付いてくりゃ、も一人お姫さんが付いてきて……ほら、5人ぴったしだ♪ な?」

「な? じゃない…お前って奴は。まぁいい、じゃあそのお姫様二人にがっつり叱られて来い。それでも二人が出てくれるって言うなら、協力してやるよ」

 シオウは明らかに嫌そうだ。だが、もう協力する事が目に見えているようで渋々ながら承諾せざるを得ないといった感じでもある。


 リッドは小さくサンキュっと呟くと顔を離し、あらためてチームアップ結成をお願いせんと、お姫様二人に向き直った。


 ・

 ・

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 少し前。

「あぁぁ!! あの人、あんな顔を近づけてっ」

 崩れた壁の一つ、その裏から覗く女子はギギギギギと歯噛みしながらその光景を見ていた。


 彼女―――エイリー=スアラは学園入学早々に友人となったスィルカを見かけ、その後を追いかける形で現在ここにいる。

 だが、彼女が嫉妬心ジェラシー剥き出しにして睨んでいるのはスィルカ周辺ではない。寝っ転がっているシオウと、それに顔を近づいて何事か囁いているリッドに対してだった。


「何、なんなのあの人っ?! 話を聞く限り、スィルカさんとチームを組むような事を言ってたけれど……。ああシオウ先輩はやっぱり可愛い…はぁ~ん♪」

 エイリーは、可愛いモノに目がない。ぬいぐるみやお人形はもちろんの事、その対象は小動物や生物以外にも及ぶ。だが、そんな彼女が学園内ではじめてシオウを見た時、衝撃が全身を駆け抜けた。

 普通、人間を対象として可愛いという感情を抱くのは、ほぼ自分より年下の愛らしさを宿した少年少女に対してである。エイリーにしてもそこに関しては、一般的に感じる愛おしさ、そのレベルから大きく外れるほどの感動は覚えない。


 ところがである。


 学園の、10代後半という年頃が集うこの場にあって、なんという事でしょう? これほどまでに可愛い、同世代と思しき人間がこの世にいるでしょうか?

 しかもダブルショック! なんとアレで男性かつ先輩年上であるというではありませんか?!

 その事実を知った瞬間から、エイリーの可愛いモノ好きの感性は全てシオウに向けられる事となった。それは異性に対する恋愛感情とはまた違った愛だ。

 そんな彼女の、もっぱらの嫉妬相手であり天敵たるものこそ、他ならぬリッドであった。


「(ミュースィル様やスィルカ様は、まぁ仕方ありません……いえ、むしろお姫様すら魅了する愛らしさ! 当然ですね! あちらの、えーっと…ノヴィンっていいましたっけ? 彼はシオウ先輩に敬意を払ってらっしゃるようだし、まぁまぁ。…でも赤髪のあなた! テメーはダメだ、というヤツですっ!)」

 聞けば入試から一緒に受け、学園入学時よりずっと友人関係にあるというのだから羨まけしからん。なんと憎らしいことか?


「あああっ?! ちょ、ちょーーーっ?!?!」

 リッドが小声で耳打ちするその仕草。

 ちょうどエイリーの位置から見ると、まるで眠れる森のお姫様にキスをするかのように見える角度に、彼女は鼻息荒く興奮した。

「ハッ?!! わ、私ったら…そ、そんな事するはず…ハァハァ、お、男同士ですよ? ハァハァ……と、というかシオウ先輩、本当に男性ですよね??」


 ・

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 ・


 長い髪をまとめ、左右にお団子にしている特徴的な髪型。その片方が、壁端から出たり入ったりとせわしない。

「(……あそこにいる奴は、何してるんだ? あれで隠れてるつもりみたいだが、バレバレだな)」

《そーねえ。…でも、悪い感じじゃないんでしょう?》

「(ああ、何かよこしまそうなものを感じる気がしないでもないが…よくわからん)」

《移動してみたら? 何か企んでるのなら尾いてくるんじゃないの?》

「(ふむ……そうしてみるか。ちょうどリッドとお姫様たちの話もケリがついたようだしな)」


 ・

 ・

 ・


「ハァハァ…い、いけないいけない私ったら、変な妄想に――――あ、あれ? 皆さんはどこに――――」

 リッドたちを見失ったエイリーが、追いかけようと壁裏から一歩踏み出した途端。


「見つけましたわ! エイリーさん、こんなところにいらっしゃったのね!!」

「!! え、エステランタ…様? どうしてこんなところに――――わわ、な、なんですかぁ?!!」

 その腕を掴まれ、おそらくはリッドたちとは逆方向へと引っ張られてゆく。


「光栄に思いなさいな、エイリーさん。このわたくしの、チーム・エステランタの一員となれる事を」

「は、はいぃい?! 一体なんのお話ですかっ??」


「御存じありませんの? アルタクルエ神聖公国で開催される戦技大会の出場権をかけた、学園内の選抜戦技会のお話を。そこにあの、あの! ミュースィルさんもエントリーなさっていると、ついさきほど判明しましたのよ!」

 そこまで言われたら嫌な予感しかしない。というか運命はすでに確定してしまっていると言った方が正しいのだろうが、それでもエイリーは恐る恐る問う。


「ま、まさかその……え、エステランタ様も」

「もちろんですわ! 直接対決できる機会など滅多にありませんもの。貴女も私のチームの一員として大いに奮起していただきませんと! 頼りにしてますわよエイリーさん!」

「うわぁぁぁん!! で、出るならせめて、私もシオウ先輩と同じチームに…ああ、引っ張らないでくださいっ! …これもあの人リッドのせいだぁー恨みますーーーー!!」







――――――学園寮、スィルカの部屋。


「俺、シオウ、ミュースィルお姫さん、スィルカお姫さん、ノヴィン…と、いうわけで、この5人一チームで出場する事が決定いたしましたっ」

 リッドが音頭を取り、4人が何となくな拍手を送る。やる気の温度差はものの見事にバラバラだった。


「ふふ、楽しみねシルちゃん?」

「えぇと、まぁウチは大丈夫ですけど。ミュー姉様? 本当に大丈夫ですか??」

「なんとかならないかしら? 私も一応、お城にいた頃は嗜み程度には剣を習っていましたしっ」

 胸横でグッと小さく両手を握り、笑顔で可愛らしい気合いの入れ方を見せるミュースィル。だが…


「……。ミュー姉様、確か剣の先生がお手上げで匙投げて、学園に来る前の2、3年ほどは何もやってませんでしたやん」

「…うー、それはそうなのだけれど。ほら、ここに入学してから戦技の授業もあったでしょう? それで少しはカンを取り戻して」

「取り戻すも何も、最初から全然ダメダメやったですのに? ミュー姉様?」

 年下のスィルカに迫られ、それ以上返す言葉もなく困ってしまうミュースィル。

 聞く限り、戦力にはまずなれないであろうことは明白だった。


「そういうスィルカ姫さんはどんなものなんだ?」

 助け舟を出す意味も含め、これは戦力確認をした方がいいと判断したリッドが問う。

「ふふん、こーみえてウチは運動神経はええ方なんよ。蹴り技主体やけど、格闘術もマスターしてるんで、この学園の生徒相手やったら負けへん自信はありますー」

 眼鏡のズレを直し、自信ありげに微笑んだ。


 確かに彼女の下半身、太もも辺りのムチっとした感じは贅肉によるものではなく、適度な筋力による感じだ。かといって太すぎずしなやかさを感じさせる丁度よい肉付き加減は、女性の脚として見ても魅力を兼ね備えた健康美を宿している。


「……なるほど、これは期待できるな。硬すぎず、柔軟で素早い動きにも対応できそうだし」

「ひゃああ!? ちょ、ちょっとシオウさん、急にひとの脚触るん止めてくれますー?! ウチ、結構敏感で…っていうか女性の肌をみだりに触るのって一般常識的にどーなんですそれ? セクハラですよー」

 しかし言ってるスィルカ本人でさえ、シオウを異性である事を思い出すまで最初、同性同士のスキンシップと錯覚してしまっていたせいで、言葉ほど本気で拒絶する気が起こらない。


「(むぅぅ~、この容姿は反則すぎ……ズルいわぁ)」

「…あぁ、すまん。つい昔のく――――んんっ…悪かった、軽率だったよ。でも確かに自信あるだけの事はあるな」

「ってことは、スィルカ姫さんは戦力になるって事でオーケー?」

「オーケー」

 シオウの返事を聞いて、リッドは少しだけ安堵する。自分で勝手にチームアップを進めておいてなんだが、もしお姫様がた二人がどちらもまるっきり戦力にならなかった場合、このチームにおいて戦えるのは自分一人になってしまう可能性に、ついさっき気付いてしまったからだ。


「んでノヴィンは、…まぁまぁってところで」

「すみません、お気遣いありがとうございますリッド先輩」

 そう、ノヴィンは激しい戦闘行動には耐えられない。まったく戦えないわけではないが、短期決戦かつ敵が素早い対応を必要としない相手に限られてしまう上、その条件を満たしたからといっても勝てるかどうかは微妙な実力と評せざるを得ない。

 現時点では事実上、戦力外である事は彼自身も否めないとよく分かっている。リッドの穏便な言い回しに感じ優しさにノヴィンは感謝した。


「で、シオウ―――」

「………」

 1年来の友人に視線を向ける。

 完全に横になってだらしない恰好―――やる気0kgアピール―――を実行している女子野郎がそこにいた。


「シオウさーん? もしもーし、シオウさーん?? 戦ってくれますーぅ?」

「チームアップに応じただけでも大変な譲歩だと思なぁ、赤髪のーぉ」

「戦ってくださると大変助かるんですがねーぇ? 白銀のーぉ」

 なぜかなんちゃって老齢者口調でやり取りする二人。幾度とかわす妙ちくりんな言葉の応酬は、友情があるからこそできるおふざけだが、その会話の中身たる交渉は互いに真剣だ。


 シオウが折れる可能性はまずない。傍で見ていても微笑ましくも面白いものだが、彼という人物がどのような性格であるかを知っていれば、リッドに勝ち目がない事は、ミュースィル達3人には目に見えていた。

 なのでリッドに助け舟を出すべく、両手を自分の胸の前で合わせるようにポンと叩き、笑顔で口を開くは微笑みの皇女様である。


「ではこういうのはいかがでしょう? わたくしたちにシオウ様から、戦い方のあれこれをご指南いただくというのは?」

 それはスィルカとノヴィンではまず出てこない提案だった。

 リッドとガントの模擬戦の際に見せたシオウの片鱗、 “ 劣等生 ” の向こう側に隠しているモノをその目で見ていたミュースィルだからそんな事が言い出せる。


「いや、それは―――」

 いつもと変わらないシオウの態度と表情の中に、極々僅かに滲んだ焦り。並みの者がその差異を感じとる事は不可能に違いない。

 しかしそこは皇女様である。

 他人の顔色の変化と、そこから汲み取れる相手の気持ちを見逃しはしない。ましてや好意ある人物の変化の機微に、意識せずとも必要なフォローは自然と口をついて出た。


「…普段から、たくさんの書物を読んでいらっしゃいますし、効果的な練習方法や戦法などをよく御存じだと思いましたので」

 理由はわからないが、シオウが自分をあまり公に晒したくないというのは間違いない。ミュースィルは彼と知り合ってから今まで近くで見てきて、それを確信する。


 なのであの日見た片鱗・・を理由に挙げ、彼は凄い実力を持っているのでは? といった方向へと話を掘り下げる事は避ける。

 それは対人関係において割とよくある推察と気遣いの範疇だが、何よりこの場で自分しか知らないシオウの隠された一面、というのがなんだか楽しくて広めたくない気持ちもあった。


「あー、確かに。んじゃシオウ、やる気ないにしてもせめてチームの知恵袋的な感じならいいだろ? 別に優勝まで導けーとか言わないからさ」







――――――夕刻。一般生徒の宿舎、リッドの部屋。


 選抜大会に向け、チームの方針を何となく決めて解散。

 しかしその後、リッドの部屋に来訪した者がいた。


「なんだよシオウ。珍しいじゃんか、お前がオレの部屋に押しかけてくるとかさ?」

 入学以来、友人関係にあったといっても一般入学者は基本、成績のため学業に忙しい。互いの部屋を訪れるのはだいたい勉強のためであり、宿舎での学生達の間では、教わりたい者が教えてくれる者の部屋を訪ねる程度の交流しかない。


 しかもシオウは、“ 劣等生 ” とはいってもその気になれば十分にデキる頭を持っている。誰かに教えを乞うなど、この宿舎では最もあり得ない生徒である。


「……。何かあるのか、リッド?」

 いつも通り、パッと見でなんら変化はない。しかしシオウのその問いかけには、至極真面目な意志が宿っていた。


「――――何か、ってなんだ? オレに・・・何かあるわけ」

「俺は一言も “ お前に ” とは言ってないんだが?」

「………」

 しくじった、とリッドは思った。そして、自分はこういうしたたかな・・・・・やり取りというものが不得手だと心中で嘆く。会話の中、僅かな言葉の遣い方から隠そうとする事がうっかり漏れてしまう。


「……はぁ、こーゆーのやっぱダメだな、オレは。性分じゃねーや。お姫さん達みたいな世界に生きてれば、もっと得意になるかもしんねーんだろーなー」

「はぐらかしたい事なら、そう言え。何か理由があるならこっちも深く聞かない」

「そりゃどーもあんがとさん、友の気遣いが身に染みるよ。…なんで、“ 何かある ” って思ったんだ?」

 リッドの問いには、わざわざ部屋を訪ねてきた理由も合わせて聞く意図が含まれている。シオウがどこまで・・・・見透かし、あるいは察しているのか内心ヒヤヒヤしていた。


「お前の性格から言って、あの場で皆の戦力確認なんてらしくない。加えて俺に短期間でも、ミューとノヴィンの戦力化やチームの参謀役を望んだ。それじゃあ勝ちたいと言ってるのと変わらん。本当に勝敗がどうでもいいなら、チーム内で戦力になる者が少なかろうが関係ないはずだ。お前なら対戦相手を全部自分一人で薙ぎ払うとか、威勢のいい事を言う方が自然だったな」


「……お前に知恵で貢献させるのを提案したのは、ミュースィル姫さんだぜ?」

「そうだな。そしてそれを推したのはお前だ、リッド」


「………」

「………」

 沈黙。そしてやはり誤魔化せないと判断し、リッドは貯まった息を吐いた。


「わかったよ、お前にはかなわないなシオウ。そうだな…確かにオレは勝ちたい、いや、より正確には強くなりたいってのと混同しちまってる感じかな」

 話し始めたのを聞くためか、シオウは無言のまま窓の右縁にもたれかかる。リッドは窓を挟んで反対側の壁に背を預けた。


「ガントの奴とやり合って、オレはまだまだこんな程度なんだって思い知らされた。できれば、そうだな…この学園にいる生徒程度、難なくぶっ飛ばせるくらいには強くなっておきたい、って結構前から考えてはいるよ」


「……理由は?」

「そこは一身上の都合、って事でいまは勘弁してくれ。…でだ、アルタクルエ神聖公国でやるっていう戦技大会は、2年に1度ごとのものだって聞いてな」


「らしいな」

「って事はその大会に出る奴を決める、この学園の選抜も2年ごとだろ? ならオレたちは今年を逃したら、次はもうない」

「どうしても、って言うなら留年する手もあるぞ」

 思わずリッドは笑い声を漏らした。この話し難い空気を和らげる一言は、友人の気遣いだ。


「茶化すなよ。けどまぁとにかくだ、今回が最初で最後の機会ってこった、この学園の生徒と試合形式で対戦できるのはさ」

「普段の模擬戦は所詮は練習、誰も本気でやろうとはしない…一部の熱心な連中を除いて……か」

「そーゆーこった。それにそういう奴らだって選手に選ばれるために、まず間違いなく普段とは本気度が違うだろ? できれば色々と経験を積んどきたいんだ」

「つまり、理由は個人的な事で言えないが、とにかく強くなりたい…成長したいって感じか」

「…ワリぃな、いろいろと」


「いいさ、気にするな。とにかくリッド、お前にはお前の理由があって、出来れば勝てるなら勝ちたいってことだろう? そういう事なら知恵は貸す、相応に・・・はな」

「あくまでは貸しちゃくれないってか?」

「貸すさ、知を。…それになるべく多くと対戦したいなら、チーム内に戦える奴が多すぎない方が出番も必然、多くなる。嬉しかろう?」

 それまでの空気感が一気に霧散した。

 いつもの悪友同士の、フランクな雰囲気へと変わってゆく。


「物は言いようだなー、ったく。堂々と “ 俺は戦いません ” って宣言してるようなもんじゃないか」

「その通り。まぁ頑張れ、他人ひとには言えない理由があるんだろう? ならやるしかない、それいけリッド=ヨデック」

「へいへい、言われずともですよー。…ってか、お姫さんとノヴィンの件、任せた手前でいまさらだけど、何か考えはあるのか?」

「ああ。押し付けられた手前だが、すでにいくつかある」

 いったい何度呆れさせられれば慣れるのだろう? なんだかんだで方策を既に考えているという友人にリッドは、お前にゃかなわないと両手を天井に向けるジェスチャーを取った。が、直後に驚きの一言が飛んできた。


「ま、具体的な方法を決めるには、もうちょい調べる必要はあるが……他人事のように言ってるけどなリッド? その対象にお前も含めてるつもりだぞ俺は?」

「へ?? お、オレも?」


 リッドの頭の中では、とりあえずはミュースィルとノヴィンが多少なりともチーム貢献できるようになればいいと考えていた。


 もちろんリッド自身、今より成長するのは大歓迎だが、ガントのようなごく少数の一部を除けば、戦技の成績から学園内においては既に十分な強さがあると、無意識の内にうぬぼれ、自身が選抜までの間にする事は何もないつもりでいた。


 特に我流な彼には、正規の剣術練習はむしろ自分のペースやスタイルを狂わせる事になりかねない。

 シオウが一体、自分に何をさせるつもりでいるのか? 彼の中では興味よりも怖さの方が勝っていた。










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