第2章4 元・悪戯小僧の才能


――――――新年度が始まってから約二週間。


「……」

「はっ、はっ、ふっ、ふっ、はっ、はっ、ふっ、ふっ」

 リッドは、ノヴィンについて一緒に身体を鍛えていた。今も学園に登校する前に、軽く・・宿舎まわりをランニングしている最中なのだが…


「ノヴィン、おいノヴィン。止まれって!」

「うわっ!? ど、どうかしたんですか先輩?? お疲れでしょうか?? はぁ、はぁ…はぁ…っ、はぁ……」

「それはお前の方だろ。息切らしまくってるくせに、ハイペース過ぎるって。軽くっつったろに?」

「あ、す、すみません!! つい…っ」

 本当に呆れた。

 ノヴィンに……ではない。彼の本質を見通した1年来の自分の友人殿に、である。


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 1週間ほど前、学園棟内の食堂―――――


「シオウさん! 人の努力を否定するようなこと言うんは、ちょっと酷すぎるんと違います?!」

 もはや先輩とすら呼ばなくなったスィルカに詰め寄られるシオウ。だが席に座したまま、まるで動じることなくパンをモギュモギュと頬張り続けていた。


「シルちゃんダメよ、そんな声を荒げて…はしたないでしょう?」

 ミュースィルがほんの少しだけ、声色に強く咎めるものを込める。スィルカはハッとして机の上に乗り出していた己を引っ込め、椅子に腰かけなおした。

 ここは他生徒の目もある公共の場だ。なんだかんだ言ってもお姫様身分になる彼女らが、みだりにみっともない姿を晒すことは憚るべきだとスィルカも承知していた。


「そーらろだぞー…モギュモギュ…、ミューの言ほおりとおり…モギュモギュ…、はひははひほしたないぞー」

「食べながら喋るお人に言われたくないですー! といいますか、完っ全に棒読みで、わざとらしすぎっ、絶対わざと言ってるじゃないですか。しかもミュー姉様を呼び捨てに…いくらなんでも不敬すぎですよ!」

 そんな二人のやり取りと様子を見て、ノヴィンは心中安堵していた。


「(よかった…先輩の言う通りだ、スィルカさんは別に心の底から先輩を嫌ってるわじゃないんだ)」

 言い合ってるように見えるが、嫌な感じはしない。本気で嫌悪しているワケじゃないと感じられる。

 そしてますますシオウという先輩への尊敬の念を深める。先日、自分の努力を否定されたことはノヴィン自身、さほど気にはしていなかった。自分のことでシオウが責められているのが心苦しくすらある。


「私がそう呼んでって頼んだことだからいいんですよ、シルちゃん」

「――――~~~ッッ、はぁ、ものすごい嬉しそうな顔してはりますけど。…ミュー姉様? わかってらっしゃるでしょう、ウチらは――――」


 また昂りそうな感情を霧散させ、スィルカは気持ちを落ち着かせる。そして今度は生徒でもスィルカでもなく、この上なく真面目に、 “ 姫 ” たる雰囲気を醸し出しながらミュースィルを見た。

 それに応じるように、シオウの隣の席でのほほんとしてたミュースィルの瞳にもまた、“ 姫 ” が宿り、彼女を見返す。


「――――ええ、もちろん分かっています。大丈夫、キチンとわきまえてはいるつもりだから」

 同席しているノヴィンは、二人の変貌した雰囲気に息を飲んだ。単純な身分階級の違い…だけではない。

 そこらのエリート様とは違う、生れついての本物・・を間近にして、なぜか自発的に膝をつかなければならないような気にさせられる。

 リッドも、ノヴィン程ではなかったものの、変化した場の雰囲気を感じてそれを受け流すように自分の気配を消し、静観して木製コップの中身をあおった。


「モギュモギュモギュ……」

 シオウはなんら変わらずにパンを頬張っている。


「(もはや小動物か何かを見ているような気分だと思うのが正解だな、アイツに関しては)」

 友の神経の図太さに呆れながら、リッドは同席者たちを順番に観察していく。


「(…で、お姫さんたちは身分上、その将来はある程度決まってるし自力じゃどうにもならないものを抱えているわけだから、その辺を話題にして茶化せない……んで、この空気はフツーびと出身なノヴィンからすりゃ萎縮して沈黙しかできない、ってとこか。ふー…ったく)」

 的確に状況を把握し終えると、口元を隠すかのようにしていた木製コップは、再びテーブルの上に置かれる。そのときコンッ、と少し大きめの音を立てた。


「なぁ、シオウ。とりあえず発端としちゃ、お前がノヴィンの奴になんか言った事だって話なのはわかったけど、つまりどーゆー事なんだ?」

 リッドが会話主導権を拾うと、4人は黙して彼を見る。そしてボールを投げられたシオウの発言を待った。


「あぁ……自修棟の戦技修練場で、他生徒が剣術の練習やってたのを見て、ノヴィンが自分も頑張りたいってやる気だったんだが俺は、お前には無理だからやめとけって言った、って話だよ」

「それ! 意味わかりませんー! なんでそんな他人の努力しようっていう姿勢と意志を否定するような事言うんですー!?」

 案の定、スィルカが噛みつく。がるるると獣を真似た可愛らしい睨みと唸り声でシオウを威嚇していた。


「………。んー、そうだな…口で説明するのはちょっと難儀か。…リッドはともかく他は多分、納得できないだろうし」

「?? 何か難しい問題でもあるのかしら?」

 ミュースィルが、分からないなりに機転を利かせた疑問を投げかけた。

 何かしら重大な理由があるのでは? といった匂いを漂わせれば、スィルカもそれを知るまでは大人しく聞く姿勢を取ると踏んで、わからないなりにも援護の意を含んでいる一言。

 それに気づいたシオウとリッドは、さすがとばかりに口元を僅かに緩ませた。


「ま、問題といえば問題かな。…でだノヴィン、一つ確認」

「はい、なんでしょうかシオウ先輩?」


「お前の直近の目標、大会選抜・・・・に出たい、って事で合ってるか?」

「はい、できれば…ですが。入学したてで生意気かもしれませんけど、勉強も頑張って、戦技でも強くなりたいんです、僕。……よ、欲張り、でしょうか??」


 お前の意志は確認したとシオウは目を閉じたまま小さく頷く。


「そうか…んー…よし、リッド」

「ん? なんだよシオウ?」

「お前に任せるわ。ノヴィンの奴、ちょっと1週間くらい見てやって・・・・・くれ」

「はぁ?? なんでそうなるんだ? お姫さんの疑問への答えはどーなんだよ??」


「その答えのため。ノヴィンも含めて3人が納得いく回答を証明する、その一環だな。ノヴィン、リッドについて戦技のほう、ちょっと色々練習見てもらってみ? ……1週間後、答えは自ずとわかるだろうから」


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 この一週間、リッドはノヴィンを鍛えた。といっても、最初は軽く…徐々にあげていき、無理はしないつもりだった。

 だが…


「ぜーぜー、はー、はー…ぜー、ぜぇー…」


 鍛えるどころではなかった。ファーストステップ、リッドが考える最も軽い練習から、この一週間、一切ステップアップしていない・・・

 歩行からほんのちょっぴり早い、早歩き程度のスピードのこのランニングでさえ、200mほどで息を切らしている始末。

 そして、リッドもこの一週間付き合ってきて、その理由をなんとなく察していたが、あえてノヴィンには何も言わずに練習を続けた。


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 いつもの庭で、木の下に座るミュースィル。その豊かな胸を枕にする形でシオウがもたれかかっている――――より正確には、抱き捕まえられた大きなぬいぐるみのような状態で、シオウは本を読んでいた。


「ねぇ、シオウ様。今日で一週間ですよね? …そろそろ、教えていただけないですか?」

「………」

 日向ぼっこと読書。いつもは会話などない穏やかなひと時。だがミュースィルはその静寂の時を切って、言葉をかけた。

 彼女の好奇心や知りたい欲求から発せられたように聞こえる問い。だがシオウは、眺めるようにして読んでいた本からその視線を、一度瞬きしてから右へとスライドさせ、そして極小さく息を吐くと同時にまぶたを閉ざす。


 やきもきしているのはミュースィルではない。そこの崩れた壁の一つの裏に隠れて聞いているスィルカだ。

 恐らくは彼女がミュースィルに、それとなくシオウに聞いてもらうよう頼んだのだろう。スィルカが隠れている事は、シオウにはバレバレなのだが、あえて気付かないフリをした。


「………。ミューは、自分のお城の兵士と正面きって剣で戦って、勝てるか?」

「……勝てる、かもしれませんし、勝てないかもしれません」

「その理由は?」

「私は戦い事は苦手ですから、剣を持ってもきっと勝てないと思います。けど、勝つことだけを考えて挑むとしたら、罠など卑怯な手を用意する事ができるかもしれません。なので可能性、という意味では低いでしょうけれど、勝率も0とは言い切れないのではないかなって」

 その答えに、シオウが肯定の頷きをした事を、彼女は自分の胸に伝わる感触で知る。


「そうだな。極端な話、赤ん坊でさえ熟達した兵士に勝つ可能性は0じゃあない。かなり屁理屈で、現実的とは言い難いが。…じゃあ、同じ条件でスィルカがお城の兵士と正面きって戦った場合は?」

「! ………、それは、勝つ確率の方が高くなる、と思います。あの子は私と違って、格闘術を嗜んでいますから」

「蹴り技主体だな。確かに、そこらの一兵卒レベルが相手なら、彼女の勝率は高いな」

「(!? なんで、私の技がキックメインって…知ってるん?? ミュー姉様から聞かされてた……ようにも……)」

 壁の裏で、スィルカは息を飲んだ。

 どうにもシオウには、何か得体のしれないものを感じずにはいられない。敬愛するミュースィルには悪いが、こういった勘どころは自分の方が遥かに優れているとスィルカは自負している。その勘が、シオウが単なる怠惰者を演じる優秀な者、というだけではないと告げてくる。


「? どうしてシルちゃんがキックが得意って分かったんですか?」

「(ナイス質問です、ミュー姉様!)」

「理由はいくつかあるが……一つは彼女の下半身。移動の際の足運びや動きが、相応に練習している者のソレだ。一方で、そんな下半身と比べると上半身は、明らかにこれといった格闘技の練習を積んでいる様子はない。という事は足を主体とした戦闘技術、格闘技の類をメインに修めていると見るのは道理だろ」

 スィルカのみならずミュースィルでさえ呆気に取らた。

 事も無げに言ってのけるシオウだが、そうと見抜くのは簡単ではない事くらいお姫様二人にもわかる。


「で、だ」

「は、はいっ?!」

「……。まぁいいか、で、ノヴィンの事だが―――――」



 ・


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「せぇやぁーーーっっ!!!」


 カァンッ!


「踏み込みが甘い、そんなんじゃ木剣の芯が相手に届かないだろ。そらっ」


 フゥンッ…カンッ!


「あぅっ! く、くっそぉっ」

 リッドが軽ーく、右から左に振るっただけで、容易く受け止めた木剣を払う。

 負けん気ですぐに構えなおすノヴィンだが……


「はぁ、はぁっ、はぁ、はぁっ」

 息が荒い。

 ランニングから10分の休憩、後、軽い筋トレを一通りやってまた10分の休憩。

 その後にこの木剣同士での練習である。十分な休息を挟み、なおかつ内容も軽いものばかりにしているにも関わらず、ノヴィンは僅か30合の打ち合いで息を切らしていた。


「(虚弱気味の体質……じゃないな、本命は)」

 リッドは、特に構えを直す事もなく、フラっと間合いを詰める。

「うくっ!? う、うああああっ」

 まるで悲痛な叫びにも似た咆哮を上げながら、ノヴィンが木剣を振り落としてきた。だがそれを、身体を横に1歩分スライドさせて軽々と避けると、両手ではなく片手で掴んだ木剣を、リッドは相手の二の腕に当てた。


「ほれ、左腕が切られてたな? ……もっかい、仕切り直すか?」

「はぁ、はぁ、はぁ…は、はいっ、お願い…しますっ」

「(酷な話だ……ってか、オレに伝えさせようって事かよ、シオウ?)」


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「アイツの場合、まず骨格が、戦闘に耐えうるものじゃないんだ」

「骨格…ですか??」

「ああ……」

 シオウは、どこか哀しみを帯びた瞳でどこか遠いところに視線を向けた。


「普通と違って、アイツの骨格…特に足の骨は真っすぐじゃない」

「え? …そう、なのですか??」

 ミュースィルが疑問に思うのも無理はない。ノヴィンの足は、少なくとも制服のズボンの上からでは、まったく曲がっている様子はなかったと認識しているからだ。


「おそらく先天的なものだろうな。後天的に事故や成長の変異によるものなら、筋肉や血管、脂肪、神経などの他の組織も一緒に変形してしまうだろうから見た目にもあらわれる。だが、骨だけが曲がって生まれ、なおかつそのまま成長し、他の組織はそれを補うように付いた。だから見た目…肉の上からは真っすぐにしか見えない」

「……シオウ様は、どうしてお気づきに?」

「歩き方だ。……靴紐の結び方も、最初、人は意識しながら練習する。だが出来るようになり、何度も繰り返せばやがて無意識化で出来るようになるだろう? それ以降は、靴紐なんて結べるのが当然になり、いちいち結び方を考えながらする事はない」

 スィルカは、生唾を飲んだ。シオウが何を言いたいのかを、既に理解していたからだ。そして、自分はそんな事、気づきもしていなかった事への焦燥と自責が、強い緊張へと彼女をいざなっていた。


「それと同じで人は一度身についた歩き方に、いちいち疑問を抱かないし、意識を割く事もない……普通の歩き方だろうと、変な歩き方だろうと。そしてノヴィンは骨格上、変形した足の骨……それを庇うように歩いている」

「それを…シオウ様は見抜いて」

「まぁな。後はそれなりに観察していればわかる。足の骨だけじゃない。腕の振りや腰の捻り、首に左右を向く時の頭の振り方……。人間の身体は骨格を柱にして動くから、骨格の造りからして無理のある動きは出来ないし、許容範囲内であっても大きく負担がかかる動きもある。ノヴィンは――――――」


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「――――お前の身体は、戦いごとには向いてないんだ、ノヴィン。酷なことを言うようだけどな」

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……、っ!」

 粒が分からないほどサラサラの砂が敷き詰められた地面。硬い土床では、怪我をしてしまうからという理由で、学園側が配慮したその優しさは、今のノヴィンにはより強い痛みとして、身体ではなく心に響く。

 両手を握り、掘り掴んだ砂。柔らかくて心地良いサラサラ感は、木剣を振るって疲れた手のひらを癒してくれる。

 掴んでいたはずの得物は、少し離れた場所に飛ばされ落ちて、四肢を地面に付けている彼の首には、リッドの木剣が接触していた――――それは無力な、練習なれども敗北者たる者の姿。


「は、……ははは、……やっぱり……僕じゃ、ダメ…なんですかね」

「お前…、知ってたのか自分の身体の事?」

「…はい。もうとっくに忘れてたんですけど、シオウ先輩に言われて思い出して……」

 ムキになって同級生に相手になってもらったというのも、心の奥底では自分の覆しようのない弱さを否定したかったのだろう。

 だがリッドから見て、ノヴィンは自分の弱さを間違わずに克服できる精神性の持ち主ではない事はあきらかだ。覆せないものを覆すためには、地道でち密な計画の元に己を少しずつ改善していく気長さか、血反吐を吐きながらも、限界を突破するという常軌を逸した狂気の沙汰がいる。


「でも、忘れてから何年も経ってるし、身体だって成長してるはずだからもしかしたらって思ってたんですけど。やっぱ、ダメみたいですね、ははっ……」

 希望的観測にすがる時点で、彼の性格ではどの方向であってもストイックに振り切る事はできないのは明らか―――それはつまり、ノヴィンには生まれ持った己のハンディキャップを、決して克服できないという事。


 ・


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「――――本人が、自分の身体がどれだけ傷ついてもいいとまで覚悟できるなら、まだいい。だが、そうでないのなら……外からあれやこれやと半端な希望を抱かせるような応援は、後々の大怪我の元にしかならない。それも、人生により深いハンデを背負わせてしまいかねないような大怪我の、な」


「だからシオウ様は、ハッキリとおっしゃったのですね、厳しいお言葉を」

「まーね。それに本人が反発、奮起して、開き直る境地にたどり着けるのであればそれはそれでいいし。どのみち苦言に精神が引きずられるようなら、克服なんて夢のまた夢。生兵法は大怪我の基、そのものズバリだ。幸いノヴィンの場合、日常生活に支障がないレベルだからな。本人が望もうとも、俺が嫌われる事になろうとも、ダメなものはダメだと言ってやる方がアイツのためになる。それだけだよ」

 壁の向こうで気配が萎えていくのがわかる。

 シオウの言葉を聞いて、自分がどれだけ他者を理解せず、また暗愚であったかを思い知らされたのだろう。スィルカは、両肩を落として壁で背を滑らせ、その場にへたり込んでしまった。


「? ではなぜ、リッドさんにノヴィン君の事を?」

「アイツは、ああ見えてリーダーの素養がある。知ってるか? 今は大人しいがああみえて、ガキの頃は悪戯で名の通った悪ガキどもの中心人物だったらしいぞ?」

「まぁ、そうなんですか。リッドさん、不良君だったんですね」

 ちょっと違う気もするが、と言いかけてシオウは言葉を飲み込む。ミュースィルとて頭のいい女子ではあるし、身分階級を鼻にかけないとはいえお姫様だ、それもこの国で一番の。学園に入学するまではお城暮らしで、満足に外に出かける事もままならなかった箱入り娘。

 シオウが旅の最中に見てきた、世界のご令嬢の方々と比べればマシとはいえ、やはり多少なりとも世間知らずな部分はあるのは仕方のない事なのだろう。


「で、そういう悪ガキの大将になるには、大きくわけで二つのタイプがある。一つは単純に、何かしらの力を示して他を抑える者だ。周囲が勝手に委縮して弱い立場となるため、横暴になりやすく自身に問題が及びそうな時には真っ先に逃げ出す、真のリーダーとは言えないタイプ。もう一つは、自分に付き従う者全員に、分け隔てのない扱いができる気遣いと、いざという時に積極的に味方の力になり、責を追う気概を持つ真のリーダーたるタイプ」

 ミュースィルはクスリと笑う。そして答えの分かり切った問いをした。

「リッドさんは?」

「…もちろん、後者だな」


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「ふーん……そーだなぁ…。うーん、よし、ノヴィン!」

「は、はい? なんでしょうか?」

「今度の選抜・・、オレも出てやろう。確かアレは5人一組のチーム参戦のはずだから、同じチームになればなんとかなんだろ」

 ノヴィンは、目をぱちくりさせた。確かに大会選抜に出場する事は、可能ならば程度には思っていた事だ。しかし今しがた、自分の戦闘能力およびその将来性のなさに打ちひしがれたばかりで、困惑する。


「え、いえ、でも、しかし、その…せ、先輩が僕と同じチームになんて、そんなご迷惑をおかけする――――」

「いいからいいから。シオウの馬鹿も巻き込めば…とりあえず、5人そろうしな」

「え、…ええええええ?! お、お、お姫様のお二人も巻き添え…いえ、巻き込む気なんですかっ??!!」


「はっはっは、なーに、あの二人だって今は学園の生徒。大丈夫大丈夫、オレらと何も変わらんって! 第一シオウの奴には、この一週間を押し付けられた―――ああ、嫌だったってワケじゃないけどな? これは貸しだから、アイツにはキッチリその分、働いてもらおう、よしそうしよう!」

 ノリよく自己完結し、トントンと決めていくリッド。

 別に深い考えはない。参加は誰でもできるのだから、勝ち負けにこだわらず、とにかくやってみよう、でいいじゃないか、と気楽に決める。




「「……クシュンッ!!」」


 そして同じ頃、シオウとスィルカが、同時にクシャミをしていた。

 何か嫌な予感を感じながら。



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